Interview
ヤッホーブルーイングのEC戦略とファンとの絆づくりの秘訣
株式会社ヤッホーブルーイング
公開日
2024.02.28

クラフトビール市場において独自の戦略を展開するヤッホーブルーイング。 自社EC事業の成長とファンとの関係構築の取り組みについて、株式会社ヤッホーブルーイング YES!通販団月組(通販事業ユニット) ユニットディレクターの桂馬 拓也氏に話を伺いました。
桂馬 拓也
株式会社ヤッホーブルーイング YES!通販団月組(通販事業ユニット) ユニットディレクター

2017年にヤッホーブルーイングに新卒入社し、2020年より現職。通販事業ユニットにて、デジタルマーケティングや商品/サービス開発など公式通販サイト「よなよなの里」の運営を担当。通販を通じた販売最大化だけでなく、クラフトビール定期便サービス「ひらけ!よなよな 月の生活」を中心としたファンとの絆づくり活動に取り組む。
ヤッホーブルーイングのEC事業の位置づけ
1997年創業のクラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」は、代表的な製品「よなよなエール」や「水曜日のネコ」、新製品の長期熟成ビール「眠れるししし」などを展開し、自社ECサイト「よなよなの里 本店」や楽天市場などECモールへの出店などを通じて全国のファンに製品を届けています。 コンビニなど店頭で販売する一方、自社ECサイトでは限定商品や定期便サービス「ひらけ!よなよな月の生活」を提供し、より深い顧客関係を築く役割を果たしています。 自社ECの通販責任者の桂馬氏は、ECの役割について次のように語ります。
「ECは単独で売上を作る場というより、他の施策とつなげるプラットフォームという位置づけです。例えば、店頭で初めて購入してヤッホーブルーイングの製品を気に入ったお客様がECで定期購買してくれたり、定期購買中に不足すればコンビニで買い足したりと、複数の接点を持つことでブランドのファンになっていただく流れを作っています。」
EC事業開始の経緯とカートシステム移行の背景
ヤッホーブルーイングがECモールへの出店を開始したのは、創業間もない頃でした。当時は地ビールブームの影響もあり、店頭販売の売上を順調に伸ばしていました。 しかし、ブームの終焉とともに店頭販売の売上が低迷。新たな販路を模索する中で、楽天市場をはじめとするECモールでの販売に力を入れ始めました。 その後、より顧客との関係を深める手段として、自社ECの運営にも本格的に取り組むこととなりました。2021年には自社ECサイトのカートシステムを「ecbeing」にリプレース。この決断の背景には、定期便サービスの拡充という課題がありました。
「定期便の運営難易度は非常に高く、お客様が自由にビールを選べる仕組みを提供しているため、在庫管理や出荷管理の負担が通常よりも劇的に増します。以前利用していたECカートシステムではお客様が年間契約しか選ぶことができませんでした。 年間契約では購入ハードルが高く、間口が狭いです。海外転勤やご懐妊、体調不良といったお客様の事情を考慮すると、年間契約以外の選択肢も必要ではと考えました。こうした背景から、より柔軟な運営が可能なecbeingに移行しました。ecbeingを選んだ理由は、単に機能面での適合性だけでなく、要件定義の段階から伴走し、細かい要望に対応してくれるパートナーとしての信頼性が最も高かったためです。」
リプレース後は、月間契約の導入などお客様へ提供できることが広がり、顧客の利便性が向上。システムの変更により社内の業務プロセスも見直され、EC運営の効率化が進んだといいます。
在庫管理と全社連携の重要性
ヤッホーブルーイングでは、在庫を自社EC、ECモール、店頭販売の各チャネルごとに分けて管理するのではなく共通して管理しているため、全体最適化を重視した運用を行っています。特に、販売チャネルごとの商流の違いによる時間軸のズレが、在庫管理における大きなポイントとなっています。
「店頭販売では、数ヶ月前に棚割りの計画が決まり、それに合わせた発注を行います。一方で、ECは極論をいえば翌日からでも販売することができます。」
「例えば、季節限定商品では販売時期が限られているため、需要予測と在庫配分が非常に重要です。あるチャネルで販売が急増したとしても、他のチャネルで在庫が不足または過剰になってしまうと、事業全体としての最適化が損なわれます。そのため、販売チャネルごとの責任者が定期的に連携し、在庫の最適な配分を調整しています。在庫管理には基盤システムを活用し、全社で在庫情報をリアルタイムに共有していますが、単にデータを共有するだけではなく、その数値の意味を統一した視点で解釈することが求められます。」
お客様との関係構築と今後の展望
ヤッホーブルーイングは、ただ店頭やECでクラフトビールを販売するだけでなく、イベントなどを通じて、ファンとの関係を深めることを重視しています。例えば、屋外イベント「よなよなエールの超宴」では、ヤッホーブルーイングのファンが集まり、ライブステージなどクラフトビールをより楽しめる場を作り上げています。
※画像出典:よなよなエール公式サイト
「ECは売るだけでなく、お客様と一緒にブランドを作る場です。クラフトビールの楽しみ方を伝えながら、お客様との距離を縮めることを大切にしています。」
今後の展望について桂馬氏は、次のように語ります。
「北海道の野球場であるエスコンフィールドHOKKAIDOや大阪りんくうタウンなど新たな醸造所の展開を進めることで、各地でクラフトビールのトライアル機会を増やしていきます。ECもそれに合わせてアップデートし、お客様との接点をさらに強化していく予定です。」
ヤッホーブルーイングの取り組みは、単なるEC販売にとどまらず、ファンと共創するビジネスモデルとして進化を続けています。
ご協力いただいた企業様
株式会社ヤッホーブルーイング
クラフトビール「よなよなエール」をはじめ「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「僕ビール、君ビール。」「軽井沢高原ビール」などを製造・販売
