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Interview

三菱マテリアルCDO端山氏が語るMMDX2.0への取り組みと製造業DXの核心

三菱マテリアル株式会社

公開日

2025.02.27

三菱マテリアルCDO端山氏が語るMMDX2.0への取り組みと製造業DXの核心

三菱マテリアル株式会社は、1871年に三菱グループの源流となった九十九商会が紀州新宮藩の炭鉱を租借したことから始まりました。その後、三菱鉱業、三菱鉱業セメントを経て、1990年に三菱金属と合併し現在の社名となっています。同社は、中期経営戦略2030において、「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」 を目指す姿とし、デジタルトランスフォーメーション(DX)を重要な戦略の一つとして位置づけています。
この変革を推進する中心人物が、CDO(最高デジタル責任者)の端山氏です。本インタビューでは、三菱マテリアルの全社デジタル化戦略MMDXの進化、特に「MMDX2.0」の戦略、システム開発における要件定義の課題、DXを推進する人材育成、今後のDXの展望について、詳しくお話を伺いました。

端山 敦久

三菱マテリアル株式会社 CDO / DX推進部長

MMDX*2.0の取り組み

インタビュアー: 貴社は前中期経営戦略からDXの積極的な取り組みを進められていますが、2022年度からは「MMDX2.0」としてDXへの取り組みをさらに強化しています。MMDXからMMDX2.0へと、テーマを再編成し、体制を強化された背景について教えていただけますでしょうか?

(*MMDX:三菱マテリアル・デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)

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端山氏: MMDXは、当初、お客様との接点を強化し、全ての業務プロセスを刷新することを目指してスタートしました。MMDXの取り組みでE-Scrapビジネスプラットフォーム「MEX」(Mitsubishi Materials E-Scrap EXchange)の立ち上げなど、成功事例も出ました。しかし、製造業である当社にとって、お客様との接点だけを強調すると、製造現場との距離ができてしまうという課題がありました。また、当初は経営層や事業のトップ主導でテーマ化されたものが中心であったため、現場からみると少し遠い、あるいはあまり関係ないと映ってしまったという反省点もありました。
そこで、MMDX2.0では、「ものづくり領域の強化」 「実行体制の強化」 「ボトムアップ活動の強化」 の3つを柱課題とし、より現場も含め、MMDXをリスタートさせるために2.0に改訂することにしました。

インタビュアー: 製造現場と少し距離を生んでしまったとのことですが、その状況をどのように課題として把握されたのでしょうか?

端山氏: 当社には、以前からものづくりを推進する組織があり、現場の改善やスマートファクトリー化等に取り組んでいました。しかし、MMDXの活動とは別物のように捉えられてしまっていたのです。経営視点では同一の課題して捉えているのですが、MMDXの枠組みの中に入っていないことによって少し捉え方が異なっていたんですね。
データ活用においても、現場のデータと本社系のデータが別々に扱われる傾向がありました。そこで、MMDX2.0では、これらの活動を統合し、現場活動も一体となったDXを推進していくことを明確にしました。

インタビュアー: 現場起点でのテーマをどのように吸い上げているのでしょうか?

端山氏: いくつかの方法を組み合わせています。

  • タウンホールミーティング: 全社的なミーティングで、MMDXの状況を説明しています。
  • 拠点訪問等: 現場の責任者や幹部メンバーの意見を直接聞く機会を設けています。
  • 改善活動: 各拠点で実施している改善活動の中から、DXのテーマになりそうなものを拾い上げています。
  • DXチャレンジ制度: 現場主導でDXのテーマを提案できる制度を設けました。この制度では、DX部門が立ち上げを支援し、PoC(概念実証)に必要な費用を負担します。

これらの取り組みを通じて、現場からの自発的な提案を促し、より実効性の高いDXを推進しています。

インタビュアー: 現場の意見を吸い上げる一方で、全社最適という観点も重要だと思います。このバランスはどのように取られていますか?

端山氏: 現場からの提案は、どうしても局所的なものになりがちです。一方で、全社的な視点からは、グループ全体を含めた最適な判断が必要になります。そのため、現場からの提案をなるべくかなえつつ、全体最適の観点から評価し、良いとこ取りをするように心がけています。また、現場の小さな改善であっても、横展開可能なものは積極的に推進し、全社的な効果を生み出すことを目指しています。

インタビュアー: 実行体制の強化という点では、具体的にどのような取り組みをされていますか?

端山氏: これまでDXは、主に本社主導で進めてきましたが、事業系DXテーマは徐々に各カンパニーが主体となってDXを推進していく体制に移行していっています。具体的には、DX推進本部の一部の人材を事業部門に戻すことで、より事業や現場に近い場所でDXを推進する形に変更したり、カンパニーや拠点、グループ会社のIT人材の一部を集約し、テクノロジーに関する専門性を高めたり、先進技術の検証などが進む体制を強化しています。
また、DXテーマのオーナーはそれぞれの領域を管掌する役員が持つため、経営が実行にコミットする体制作りも大事ですね。

img 撮影場所:WeWork 丸の内北口

インタビュアー: システム開発の進め方についてお伺いします。5つの領域(事業系DX、ものづくり系DX、研究開発DX、全社共通DX、基幹業務刷新)でDXを推進するにあたり、工夫されている点はありますか?

端山氏: システム開発においては、各領域の特性に応じて、アジャイル型開発ウォーターフォール型開発を使い分けています。
アジャイル開発は、変化に柔軟に対応できる一方、ユーザーサイドを含めた開発チームの理解度にばらつきが出やすいという課題があります。
一方、ウォーターフォール型開発は、計画通りに進めやすいものの、変化に対応しにくいという課題があります。そこで、テーマの規模や業務内容に応じて、最適な開発手法を選択するように心がけています。方法を最初に固めすぎてもビジネス目標や環境が変わると対応内容も変わるため、その最適な形で進められるようにしています。

システム開発における要件定義の難しさ

インタビュアー: 要件定義というワードがでましたが、システム開発における要件定義プロセスにおいて、特にどのような課題を感じていらっしゃいますか?

端山氏: 要件定義プロセスはシステム開発において根幹となる部分ですが、その分、やはり難しく課題は多いです。まず、ビジネス目標とシステム要件との間のギャップが大きな課題です。ビジネス側が目指す目標を、具体的なシステム要件に落とし込むのが非常に難しい。

インタビュアー: 具体的には、どのような点が難しいのでしょうか?

端山氏: ビジネス目標を理解し、システム要件に変換できる人材が不足しています。IT人材は技術的な知識はあっても、ビジネスの現場を十分に理解していない場合がある、その逆もまた然りです。そのため、ビジネス側の意図が正確に伝わらず、結果としてシステム要件がビジネスニーズに合致しないという問題が発生します。
また、ビジネス目標自体が曖昧な場合や、途中で変更になることもあり、要件定義がさらに難しくなります。当社のエンジニアはビジネス的な視点を持ってその橋渡しをすることを意識して取り組んでいますが、まだまだ取り組むテーマの多さに対して人材が不足している状況ですね。

インタビュアー: 業務担当者と開発担当者がそれぞれのコミュニケーションを円滑にするにはどのような取り組みが考えられますか?

端山氏: それぞれどのような観点でものごとを捉えているのか、この部分を共通言語として可視化することが有用だと捉えています。わかりやすいものとして、業務プロセスの可視化です。現状の業務プロセス、変えるべき業務プロセスというのはIT知見に関わらず業務担当者目線で整理できるものだと思いますし、その内容が可視化されることでシステム範囲のスコープも明確になります。ただ、業務フローを可視化するだけでは弱いと思っていて、業務担当者・開発担当者の共通言語としてはUML(統一モデリング言語)を用いたアクターやユースケースごとの整理など、ビジネスのロジックをモデルとして可視化していくことが双方にとってわかりやすく齟齬が発生しにくい整理になると思っています。過去にはいくつかのプロジェクトでUMLを利用してシステム開発を進めましたが、うまく行った実感があります。ですが、社内で浸透しているかというとそうではなく、やはり共通言語を作っていくという作業自体も相応に難易度が高いので、出来る人材や教育する時間がないと難しいですよね。

img 撮影場所:WeWork 丸の内北口

インタビュアー: ドキュメント管理や変更管理についてはどうでしょうか?

端山氏: ドキュメント管理も大きな課題ですね。特にDXプロジェクトでは、スピードが求められるため、ドキュメント作成が後回しになりがちです。当社では基本的な管理方針や利用ツールについては標準化を進めてはいますが、運用の徹底はまだ道半ばの状態です。要件定義は当初決めたスコープに固執せず、ビジネスの目標に応じて柔軟に変化する必要があると思っています。そのため、市況の変化に合わせて要件やリリース優先度の変更を恐れずに実行していくべきですが、やはり変更管理や意思決定の背景記録をしっかりと行うことをセットにしないといけませんね。

インタビュアー: 要件定義の段階で、部門最適と全体最適のバランスを取ることはどのように考えていますか?

端山氏: 部門最適を追求しすぎると、システム全体の統一性が失われる危険性があります。各部門が自律的に開発を進める一方で、テクノロジーの軸では全社的なガバナンスを効かせ、標準化されたツールや技術を使用することが重要です。当社の場合、各カンパニーが勝手にシステム開発を進めることは基本的にありません。技術や取組みに関してはアセスメントを行い、ツールや技術を共有化しています。目指すところは全体最適であり、その考えは変わりません。

インタビュアー: MMDX2.0では、現場視点の活動の活性化を重視されていますが、要件定義プロセスにおいて、現場のメンバーがより当事者意識を持ってDXに取り組むためには、どのような工夫をされていますか?

端山氏: コロナ禍でなかなか拠点に足を運べなかったのですが、昨年から拠点を回るようにしました。拠点長含め拠点メンバーと議論する中で、課題やニーズを把握するように努めています。実際にやってみて、全体的な場でメッセージングするだけでなく、少し閉じた環境で、本音ベースで話せる機会を持つことが大事だと感じました。DXは人や組織によって捉え方が異なるため、まずは地道に取り組み、最初の一歩を共に踏み出すことを重視しています。小さくてもいいので早く成功体験を作っていくことが大事だと思っています。

DX人材の育成と今後の展望

img 撮影場所:WeWork 丸の内北口

インタビュアー: DXを推進する人材育成について、どのように進めていますか?

端山氏: DXを推進するためには、ビジネスとITの両方の知識を持った人材が必要になるため、その知識が獲得できるよう研修や機会を提供しています。基本的なITリテラシー教育についてはグループ会社も含めた国内拠点へ実施が進んでおり、今後は海外拠点にも広げていこうと考えています。より深く学びたいという社員向けには公募制でプロジェクト管理やITツール、統計解析、マテリアルズインフォマティクスなどのデータ活用について学べるようにしています。
こういった習得すべき知識の獲得による全体の底上げや、デジタル高度人材のための機会提供は重要ですが、マインドの醸成も非常に重要だと思っています。
DXはIT部門が進めるものだ、という考えではなく、全社的に進めていくものであるとして自分自身が主体となって進めていくものだと捉えてもらうことが何より大切です。

インタビュアー: 今後のDXの展望について、どのようにお考えでしょうか?

端山氏: 今後、AIやIoTなどのデジタル技術は、ますます進化し、ビジネスや社会に大きな影響を与えるでしょう。当社は、これらの技術を積極的に活用し、新しいビジネスモデルの創出や、既存事業の高度化 を目指します。私としては、社員一人ひとりがDXの担い手として活躍できるよう、育成や機会創出に力を入れていきたいですね。また、変化を恐れず、新しい技術を積極的に学び活用し、チャレンジし続ける組織文化を醸成していきたいと考えています。DXによって、当社は、より持続可能な社会の実現に貢献できる企業へと進化していきたいと思っています。

ご協力いただいた企業様

三菱マテリアル株式会社

コーポレートサイト:https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/

金属事業を中心に、資源循環やリサイクルに取り組み、銅加工や電子材料、再生可能エネルギーなど幅広い分野で技術革新を推進。持続可能な社会の実現を目指す。

三菱マテリアル株式会社