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Interview

DX推進の成功への道筋:亀山氏が語る「要件定義」とリーダーシップの真髄

公開日

2025.02.12

DX推進の成功への道筋:亀山氏が語る「要件定義」とリーダーシップの真髄

日本を代表するエンタープライズ企業において、数々の本質的な改革をIT面から支えてきた亀山満氏に、DXを成功に導くための「要件定義」の重要性、変革を牽引するリーダーシップの本質、そして現場への定着の鍵についてお話を伺いました。

亀山 満

グロービング株式会社

一般社団法人日本デジタルアダプション協会 理事 / グロービング株式会社 シニアエグゼクティブアドバイザー / 一般社団法人日本情報システム・ユーザ―協会 主席研究員

なぜ多くの企業がDXに失敗するのか

img 撮影場所:WeWork 丸の内北口

インタビュアー: 多くの企業がDXに取り組む中で、その半数が失敗に終わっているという現状があります。その背景にある課題について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか?

亀山氏: 日本企業におけるDXは、2016年頃から注目を集め、既に多くの企業が取り組んでいます。既に仕事のやり方を変え、新しいビジネスを生み出すなど多くの成果を上げている企業も増えている一方、まだまだ「デジタル化」の段階に留まっている企業が多いのも現状です。部門ごとの個別のデジタル化は進んでいるが、部門間の連携が不足しエンドツーエンドでプロセスが繋がっていない企業も多いという課題があります。また、システム刷新やツール導入といった手段が目的化し、本来の目的である業務プロセス改革まで踏み込めていないケースも非常に多いです。

インタビュアー: なるほど。個別の最適化に留まってしまい、全社的な変革に繋がっていないのですね。

亀山氏: はい。部門間の連携不足に加えて、地域間でのベストプラクティスの共有も進んでいません。ツールを導入しても、既存のプロセスを大きく変えることなく運用しているため、効果が限定的になっています。これは、変革をリードする人材育成や、リーダーシップの教育が圧倒的に不足していることも要因の一つだと思います。

トップの覚悟、具体的な行動、そして組織文化の変革

インタビュアー: これらの課題を克服し、DXを成功に導くためには、何が最も重要だとお考えでしょうか?

亀山氏: 成功の鍵は、経営層がDXを単なるIT投資ではなく、企業全体の変革と捉え、本気でコミットメントすることです。 トップがリーダーシップを発揮し、全社的な視点でDXを推進する必要があります。 DXを推進する具体的な目標やビジョンを明確に示し、部門間の壁を越えた取り組みを主導することができるのは、リーダーしかいません。
そして、「本気でコミットメントする」とは、DXに取り組むことを社内外に宣言するだけでなく、体制や評価制度そのものを見直して刷新していくところまで踏み込んで実行することを意味します。部門を横断したプロジェクトチームを組成する、デジタルへの取り組みを会社として評価する、変革をリードした人材を積極的に登用するなど、トランスフォームするには企業文化そのものを改めて作り直していく必要があります。
例えば、何事も最初から上手くはいかないため、「チャレンジして失敗を活かす重要性」をトップ自ら語り、チャレンジを奨励する雰囲気作り、実践を促す仕掛けづくりも大事です。

要件定義におけるAS-IS/TO-BE可視化の重要性

インタビュアー: 具体的なシステム開発、という視点に移ったとき、システム開発の失敗として大きな要因として挙げられているものとして「要件定義」があります※2。特に、システム開発におけるIT部門と事業部門のギャップが課題として指摘されることが多いですが、この点についてはいかがでしょうか?

亀山氏: おっしゃる通り、IT部門と事業部門の間にギャップはあります。ある種必然でもあります。事業部門は、自分たちの業務を最もよく理解していますが、IT技術の専門知識は必ずしも十分ではありません。そのため、自分たちのニーズを正確に伝えることが難しい場合があります。 一方、IT部門は、技術的な知識は豊富ですが、業務の具体的な課題やニーズを十分に理解していない場合があります。そのため、開発したシステムが現場のニーズに合わないということが起こりがちです。 このギャップを埋めるためには、要件定義が非常に重要になります。 要件定義は、IT部門と事業部門が協力して、システムに求める要件を明確にするプロセスですから。

その際には、現状の業務プロセスを正確に把握することが不可欠です。事業部門が、現状の業務における問題点や非効率な部分を特定するために、業務フローを整理し、可視化する必要があります。業務フローの可視化は、関係者全員が現状を理解するための共通認識の基盤となるためです。

ここで重要なのは、個別社員・個別の部署のみの業務フロー可視化だけでなく、一連のプロセスで登場する社員全員のプロセスをできる限り詳細に可視化することです。これにより、部門間の連携がスムーズになり、プロセスのボトルネックや重複している作業が明確になります。実際に可視化してみると、他の部署がどのような作業をしているのか意外と知らないんですよね。

また、業務フローの可視化には、単に業務を整理するだけでなく、業務プロセスにおけるデータや情報がどのように流れているかを把握することも重要です。この部分はIT部門と協力してどのように現状システム側で処理していっているのかを協力して整理するのが良いかもしれません。

img 撮影場所:WeWork 丸の内北口

インタビュアー: 個別の最適化にならないように、広い視点で業務を捉えて整理することが重要である、と。To-Beの整理はいかがでしょうか?

亀山氏: あるべき姿(To-Be)の可視化は、単に現状の業務を改善するだけでなく、業務プロセス全体をどのように変革したいかを描くことが重要です。つまり、To-Beの業務プロセスを明確に描き、その上で現状の業務プロセスとのギャップを埋めていく必要があります。
現状抱えている不満や課題をどう解決するかを考え、整理することも大事ですが、To-Beからバックキャスト的に現状を見ていくという作業も忘れてはいけません。むしろ、まず「あるべき」から整理することが重要です。

ただ、To-Beの整理のみで進めてしまうと、絵に描いた餅になってしまうリスクが高くなるため、To-Beのフローも可視化し、As-Isと比較してどこがどう変わるのかが関係者が分かる形で推進することが大事だと思いますね。

どうシステムの現場利活用・定着を実現するか

インタビュアー: To-Beを描いたあと、どう現場に実装していくのか、という部分も非常に難しい点かと思います。To-Beを現場に浸透させ、実際に業務で利用してもらうには、何が重要になっていくでしょうか?

亀山氏: そうですね、To-Beを具体的に描いたとしても、それが現場で実行されなければ意味がありません。 そこで、リアリティを持ってトランスフォーメーションを進めることが重要になります。プロトタイプやシミュレーションツールを活用して、新しい業務プロセスを早期に具体的に見せることで、関係者への理解と協力を得られやすくなります。これが決定事項としてただ降りてくるものだと、抵抗感がやっぱりある。
現場の意見を尊重し、早い段階で積極的に巻き込むことで、変革への抵抗感を減らし、スムーズな移行を促進することができます。 小さな成功事例を積み重ねながら、フィードバックを迅速に反映させることが重要です。

また、新しい業務プロセスを導入する際には、組織構造や役割分担の見直しも必要になる場合があります。 新しい業務プロセスに合わせた組織構造を再構築することで、業務効率を高めることができます。ここもトップの意思ですよね。
デジタル化で終わらせず、トランスフォームしていくには、企業として、「この方向で進んでいくことが大事だ、あなたの役割はこうなっていくよ」、というメッセージングをきちんとしていくだけでなく、実際に体制変更に踏み切ってやっていくという部分も非常に大事になります。

WHY/WHATからはじめよ

img 撮影場所:WeWork 丸の内北口

インタビュアー: 改めて、DXを推し進める上で鍵となる要素についてメッセージをお願いします。

亀山氏: DXは、単なるデジタル化ではなく、企業が成長するための変革です。HOW(技術やツール)から入ってしまうと、ツールそのものを入れることが目的となり、”X”まで繋がりません。「Why (なぜ変革が必要なのか)」を明確にし、「What (何を目指すのか)」を具体的に描くことが、DX成功の鍵です。そしてなにより、トップが本気で取り組むこと、部門間の壁を越え、顧客視点でのプロセスを構築することが重要になります。
まだまだ、日本全体としてDXの伸び代は大きいです。明るい未来を作っていくためにも、一緒に更に頑張っていきたいと思っています。

※本インタビューは2024年12月に実施、肩書きは当時のもの