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Interview

要件定義の最前線:アジャイル開発成功の秘訣

スパイスファクトリー株式会社

公開日

2025.01.24

要件定義の最前線:アジャイル開発成功の秘訣

今日のシステム開発において、要件定義はプロジェクトの成否を左右する重要なプロセスです。
本記事では、360°Digital Integratorとしてクライアント企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を全方位で支援するスパイスファクトリー株式会社様のUXデザイナー鬼木様とプロジェクトマネージャーの河合様に、アジャイル開発における要件定義の具体的な進め方、課題、そして今後の要件定義の進め方について詳しくお話を伺いました。

鬼木 生子

スパイスファクトリー株式会社 Interface & Experience Design Div. UXデザイナー

鬼木 生子

大学卒業後は大手外資系IT企業でサプライチェーン系の業務改革コンサルティングに従事。業務の中でデザインの重要性を実感し、UXデザイナーとしてスパイスファクトリーに参画。特に要件定義・体験設計・情報設計を強みとする。これまでWebサービスの新規立ち上げからリニューアルまで幅広い業種業態のプロジェクトを担当。人間中心設計(HCD)スペシャリスト。認定スクラムプロダクトオーナー(CSPO)。

河合 美奈

スパイスファクトリー株式会社 PM Div. PM(Project Manager)

河合 美奈

WEB制作会社・事業会社・総合広告代理店にて、ウェブサイトの企画・制作・運用・プロジェクト管理業務全般に携わる。PMP(Project Management Professional)。認定スクラムマスター(CSM)。主なClient:官公庁、大学、食品メーカー、製薬会社など

乾 友輔

株式会社ROUTE06 プロフェッショナルサービス事業本部 プロダクトマネージャー

株式会社リクルートに入社。HR領域にて事業企画/新規サービス開発を担当。株式会社LINE Fukuokaに転職し、プロダクトマネージャーとして自治体向けLINE公式アカウントの機能開発/SmartCity事業開発を担当。主にBtoBプラットフォームシステムのビジネス検討・プロダクトマネジメントを担当。

スパイスファクトリーの事業概要

乾: まず、御社の事業概要について改めて詳しく教えていただけますでしょうか?

鬼木氏: 弊社は「360°デジタルインテグレーション事業」を主軸に、お客様のDX推進を全方位で支援しています。具体的には、事業戦略策定のような上流工程から、UI/UXデザイン、システム開発、リリース後のグロースまで、DXに関わる全てのプロセスをサポートしています。

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乾: 御社の強みはどのような点にあるのでしょうか?

鬼木氏: 一番の強みは、各プロセスを自社内一気通貫で完結できる点です。これにより、コンテキストやコミュニケーションの断絶を防ぐことができます。また、プロジェクト全体の一貫性を保ち、スムーズな連携を実現しています。そして創業当初より、アジャイル開発を重視しており、変化に柔軟に対応しながら、迅速な開発と改善を繰り返すことを得意としています。

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アジャイル開発における要件定義

乾: アジャイル開発における要件定義のプロセスについて詳しく教えてください。

鬼木氏: プロジェクトの初期段階では、インセプションデッキという資料を作成し、プロジェクトの目的、スコープ、成功の定義などを関係者間で合意します。この段階で、プロジェクトのWhy(なぜ)、Who(誰が)、What(何を)を明確にし、関係者間の認識を一致させることが重要です。インセプションデッキは、ワークショップ形式で作成します。弊社側で叩き台を作成し、それをベースにお客様と議論を重ねていきます。キックオフから大体2週間程度で完成させることが多いです。

河合氏: インセプションデッキ作成時には、トレードオフスライダーというツールを用いて、納期、費用、リソース、品質などの優先順位を決定します。これにより、プロジェクト進行中の判断軸を明確化し、ブレを防止します。

鬼木氏: アジャイルに興味があるけど進め方がわからない、というようなお客様には最初にスクラム開発の各役割を体験してもらうワークショップを実施しています。実際に手を動かしながら、アジャイル開発の進め方やポイントを理解していただくことで、プロジェクトへの理解度が深まり、その後の意思決定がスムーズになるんですよね。

▪️インセプションデッキとは
プロジェクトの初期段階でチーム全員が共通の認識を持つためのフレームワークです。特にアジャイル開発においては、プロジェクトの方向性を正確に定め、全員が一体感を持って進めるための重要な役割を果たします。このデッキは、プロジェクトの目標、スコープ、リスク、利害関係者、成功条件などを一括して明確化するため、特に複雑でチーム間の多様性が高いプロジェクトにおいてその価値が最大化されます。
参考:インセプションデッキ徹底解説:プロジェクトを成功へ導く10の要素

鬼木氏: 弊社では、デザイナーが要件定義の初期段階から参画するのが特徴です。ユーザーリサーチを通じてユーザーのニーズや課題を深く理解し、その上で、クライアントの要望を要件に落とし込んでいきます。

乾: デザイナーが初期から参加する背景は何でしょうか?

河合氏: 従来のドキュメント先行型の要件定義では、お客様との認識のずれが生じやすく、後になって「思っていたものと違う」という問題が発生しがちでした。UXデザインを先行させることで、早い段階で具体的なイメージを共有し、お客様との目線合わせが容易になります。

鬼木氏: 具体的には、ユーザーのストーリーを作成したり、ユーザーの行動をマップ化したりします。また、ワイヤーフレームを早期に作成して画面のイメージを共有したり、必要に応じてFigmaでプロトタイプを作成し、ユーザーにテストしてもらったりもします。

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乾: ワイヤーフレームの作成方法について、もう少し詳しく教えていただけますか?

鬼木氏: 弊社では、ライブデザインという手法を取り入れており、お客様やエンジニア同席のもと、その場でデザイナーがFigmaを使ってワイヤーフレームを作成することがあります。この手法により、お客様のフィードバックをリアルタイムで反映できるほか、エンジニアが実現可能性を確認することで、開発効率を上げて手戻りを最小限に抑えることができます。

乾: その後、開発を行うための要件定義はどのように進めるのですか?

河合氏: デザイナーが作成したワイヤーフレームを元に、リードエンジニアやシニアエンジニアが機能要件を整理し、要件定義書を作成します。必要な機能、レスポンス速度、システム構成、データ処理、バックエンドの開発方法など、開発を行う上で必要なドキュメントの作成を行っていきます。

アジャイル開発における変更管理

乾: アジャイル開発では、要件変更が頻繁に起こると思いますが、どのように対応していますか?

河合氏: アジャイル開発では、変更を柔軟に受け入れることを前提としていますが、変更によってプロジェクトにどのような影響があるのかを可視化し、お客様と合意形成を図ることが重要だと考えています。ただ、変更をドキュメント上でどう管理していくか、という点については最適なやり方を模索中で課題を抱えている部分ですね。

鬼木氏: バックログの優先度を関係者で議論し、こまめに精査したり、リリースごとにインセプションデッキを見直したりするなど、状況に合わせて柔軟に対応しています。

乾: 難しい部分ですよね。どのようなツールを利用してPJTを進めているのでしょうか。

河合氏: Figmaでワイヤーフレームやプロトタイプを作成し、Confluenceでドキュメント管理、Jiraで開発issue管理を行っています。また、Figma上にコンポーネントを独自に作成し、詳細な仕様を記述することもあります。

システム開発における共通の課題

乾: システム開発において、失敗するケースはどのようなことが原因になると考えていますか?

河合氏: システム開発において失敗の要因はさまざまありますが、その中の一つにステークホルダーが十分に洗い出せていないことが挙げられます。特に大規模なプロジェクトでは、後からキーマンが現れて、計画の変更や手戻りが発生することがよくあります。プロジェクト開始前に、関係者をできる限り詳細に洗い出すことが重要だと考えています。

鬼木氏: お客様の要望と、実際のユーザーが抱える課題がズレている場合も多く、要望の背景や課題を明確にすることが重要だと考えています。なぜその要求に対応すべきかを深掘りしながら進めていかないと、使われるプロダクトにならないんですよね。また、やはりシステム開発の失敗として多いのは、要件定義が曖昧なまま開発が進み、後から手戻りが発生し、品質が低下するというものです。

河合氏: アジャイル開発は、そのような課題に対する一つの解決策だと考えています。市場環境やユーザーニーズの変化を前提として、柔軟に対応できるのがアジャイル開発の強みです。

今後の要件定義の進め方

乾: 新しい技術や方法論の誕生をどのように捉えていますか?

鬼木氏: 生成AIの活用を積極的に検討しています。例えば、Figma AIで文章からデザインを生成したり、ChatGPTでHTML/CSSを生成したりすることで、プロトタイピングを高速化し、より詳細な要件定義が可能になると考えています。今後、新しい開発手法は、現場の試行錯誤と先人の研究成果を最適に組み合わせることで生まれるのではないかと思います。ステークホルダー間の共通認識を素早く的確に可視化していくことが重要だと考えているので、最近では、生成AIのほか、RDRAやOOUI、ラピッド・プロトタイピングなど従前からある手法や技術も実践的に活用しています。

河合氏: また、PMやディレクターがAIを壁打ち相手として活用することで、思考スピードを向上させ、プロジェクトマネジメントの効率化を図れると期待しています。AIを使って、プロジェクト計画の抜け漏れをチェックしたり、ドキュメントの品質をレビューしたりすることも有効だと感じているので、どんどん取り組んでいきたいです。

おわりに

アジャイル開発における要件定義の重要性と、それを成功に導くための具体的なアプローチを学ぶことができました。UXデザインを重視し、関係者間のコミュニケーションを密に行うこと、そして最新技術を積極的に活用する姿勢は、これからのシステム開発において不可欠な要素と言えると思います。

ご協力いただいた企業様

スパイスファクトリー株式会社

360°Digital Integratorとしてクライアント企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を全方位で支援

スパイスファクトリー株式会社