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要件定義における非機能要求のテスタビリティ評価手法

公開日

2024.12.25

要件定義における非機能要求のテスタビリティ評価手法のサムネイル

システム開発プロジェクトの成功は、その初期段階である要件定義の質に大きく依存します。特に非機能要求(NFR)は、システムの品質やユーザー体験に直接的な影響を与える重要な要素です。本記事では、非機能要求のテスタビリティに焦点を当て、その評価方法と実践的な手法を解説します。

非機能要求とは

非機能要求(Non-Functional Requirements, NFR)とは、システムが「何をするか」を定義する機能要求(Functional Requirements)に対し、「どのようにそれを実現するか」を定義する要求です。具体的には、性能、信頼性、セキュリティ、拡張性、可用性など、システム全体の品質や動作環境に関する仕様を含みます。これらの要求は、システムの利用者や関係者が直接目にする機能そのものではなく、システムが正常に機能し続けるための裏側の条件や特性に焦点を当てています。

例えば、あるオンラインショッピングサイトの場合、購入機能や検索機能が機能要求であるのに対し、「ページの読み込み時間が1秒以内」「1日の取引量が100万件を処理できる」といったシステム性能の基準が非機能要求に該当します。

非機能要求は次のような特徴を持ちます。

  • システムの品質基準を定義する
  • 機能要求を補完し、システム全体の信頼性や使いやすさを向上させる
  • プロジェクトの初期段階で明確に定義しないと、開発後の修正が困難になる

非機能要求が適切に定義され、満たされることで、ユーザー体験が向上し、システムの信頼性や効率性が確保されます。そのため、要件定義段階で非機能要求を具体的かつ測定可能な形で設定することが、プロジェクト成功の鍵となります。

非機能要求のテスタビリティの重要性

非機能要求(NFR)は、システムの性能、信頼性、セキュリティ、拡張性など、全体の品質を定義する重要な要素です。しかし、これらの要求が明確でない場合、開発や運用において大きなリスクが生じる可能性があります。非機能要求のテスタビリティを確保することで、測定可能な基準を設定し、要求を正確に評価・検証できるようになります。以下に、その重要性を解説します。

システム品質の可視化

非機能要求を測定可能にすることで、システム品質を数値や基準で明確に可視化できます。たとえば、「システムの応答時間が速い」ではなく、「90%以上のリクエストに対して応答時間が2秒以内」と具体的に定義することで、品質を客観的に評価可能となります。これにより、プロジェクト関係者全員がシステムの現状を正確に把握できるようになります。

リスクの低減

曖昧な非機能要求では、プロジェクト進行中に不具合や期待違いが発生する可能性があります。テスタビリティを考慮した非機能要求を設定することで、以下のようなリスクを軽減できます。

  • 性能不足: 応答時間や処理速度が期待を下回るリスク
  • スケーラビリティ問題: トラフィック増加時に対応できないリスク
  • セキュリティ上の脆弱性: テストが不十分であることによるデータ漏洩リスク

開発・テスト効率の向上

テスタビリティを重視することで、開発とテストの効率が向上します。具体的な要求を定義することで、開発チームやテストチームが明確な目標を共有し、作業の方向性が統一されます。また、以下のような効果が期待できます。

  • テスト計画が立てやすくなる
  • 不具合発見時の原因特定が迅速になる
  • リリース前に問題を解消できる可能性が高まる

プロジェクト関係者間の合意形成

非機能要求が明確で測定可能であれば、関係者間で認識のずれを防ぎ、合意形成がスムーズに進みます。たとえば、クライアントやプロダクトオーナーが期待する品質基準を具体化することで、システム完成時の満足度を高めることができます。

運用時の安定性向上

テスタビリティが確保された非機能要求は、運用段階でも重要な役割を果たします。システムが明確な基準を満たしていることで、リリース後のトラブルを最小限に抑えることができ、メンテナンスコストの削減にも寄与します。

非機能要求のテスタビリティを向上させる手法

非機能要求のテスタビリティを向上させるためには、具体的な定義や計画的な手法が必要です。以下に、効果的なアプローチをいくつか紹介します。

要求の具体化

非機能要求を曖昧な表現のままにしておくと、測定や評価が難しくなり、テスト可能性が損なわれます。例えば「システムの応答時間を短くする」といった要求は、具体的な評価基準としては不十分です。この場合、「90%のリクエストが2秒以内に処理される」や「システムの稼働率が99.9%を維持する」といった形で、測定可能な具体的な基準に変換する必要があります。これにより、開発チームやテストチームは、要求が達成されているかを明確に確認できます。

SMART原則の活用

非機能要求を定義する際には、SMART原則を適用することで、そのテスタビリティを高めることができます。SMART原則とは以下の5つの要素を指します。

  • Specific(具体的): 要求が明確かつ具体的であること。例えば「高速なシステム」ではなく「応答時間が1秒以内」と定義する。
  • Measurable(測定可能): 要求を測定可能な数値や基準で定義する。これにより、要求の達成状況を客観的に評価できる。
  • Achievable(達成可能): 技術的およびリソース的に達成可能であることを確認する。現実的な範囲で目標を設定することが重要。
  • Relevant(関連性がある): システム全体の目標やビジネスのゴールに直接関連していること。無関係な要求は優先度を下げるべき。
  • Time-bound(期限がある): 要求を達成するための期限が設定されていること。例えば「リリース前のテストで応答時間の基準を満たす」といった形で具体化する。

SMART原則に基づく要求定義は、プロジェクトの成功率を高めるための基本的なアプローチです。

ユーザーストーリーを活用したテスト計画の策定

アジャイル開発においては、ユーザーストーリーを活用することで、非機能要求を具体的なテスト計画に落とし込むことができます。ユーザーストーリーは、ユーザーが何を達成したいかをシンプルに表現する方法であり、「誰が」「何を」「なぜ行うのか」を明確にします。例えば、「私はシステム管理者として、ログイン失敗回数が5回を超えた場合にアラートを受け取りたい」という形で非機能要求をストーリー化できます。

このように定義されたユーザーストーリーを基にテストケースを作成することで、開発チームとテストチームは非機能要求を一貫した視点で理解し、具体的な検証が可能になります。また、ストーリーが短期間のイテレーションで実現可能な単位に分割されるため、テストの進捗状況を追跡しやすくなります。

これらの手法を組み合わせることで、非機能要求のテスタビリティを向上させ、システムの品質向上とリスク低減を実現することができます。

まとめ

非機能要求は、性能、信頼性、セキュリティ、拡張性など、システム全体の品質に関わる重要な要素であり、具体的かつ測定可能な形で定義することが求められます。これにより、品質の可視化、リスクの低減、開発・テストの効率向上、利害関係者間の合意形成が可能となり、運用時の安定性も確保できます。

テスタビリティを向上させる手法として、要求の具体化、SMART原則の適用、そしてユーザーストーリーを活用したテスト計画の策定が挙げられます。これらを適切に実践することで、システムの品質を向上させると同時に、プロジェクトの成功確率を高めることができます。

非機能要求を軽視せず、テスタビリティを確保するための取り組みを早い段階から行うことで、システム開発における品質と効率の両立が実現します。本記事で紹介した手法をぜひ実践し、プロジェクトの成功に役立ててください。