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プロダクトマネジメント

事例から学ぶDX時代の要件定義書とこれから

公開日

2025.02.14

更新日

2025.02.14

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要件定義書は、システム開発における基盤であり、プロジェクトが成功するための最初のステップです。これはプロジェクトの目的、機能、品質、制約条件、スケジュールなどを詳細に記載した文書であり、開発者、プロジェクトマネージャー、クライアントといった関係者全員が共通の理解を持ち、プロジェクトを進行するための指針となります。要件定義書がしっかりと作成されていれば、その後の開発工程で方向性が迷うことなくスムーズに進行しますが、逆に精度が低いと後々のトラブルを招き、納期の遅れや予算超過、品質の低下といった問題を引き起こす可能性があります。

要件定義書の主な役割は、システムの設計と開発における「何を作るのか」を明確にすることです。具体的には、システムの機能、性能、デザイン、セキュリティ要件、ユーザーインターフェース、データの取り扱い、運用保守に関する事項などが盛り込まれます。また、要件定義書はシステムの最初の設計図として、開発者とクライアント間で合意を形成するためにも不可欠です。

作成者には、システム開発のステークホルダーであるプロジェクト/プロダクトマネージャー、ソフトウェア/システムエンジニア、UI/UXデザイナーなどが関わります。特にソフトウェア/システムエンジニアは技術的な制約やリソースに関する知識を持ち、要件が技術的に実現可能かどうかを検討します。一方でプロジェクト/プロダクトマネージャーは、クライアントの業務や業界に精通し、業務要件が適切に反映されているかを確認します。

要件定義書には、いくつかの重要な課題があります。なかでも最も大きな課題は「曖昧さ」と「不完全性」です。要求が不明確であればシステムが期待通りに作成されず、結果としてユーザーのニーズに応えられない製品になってしまうことがあります。また、要求の変更に柔軟に対応できない場合、プロジェクトの進行に遅れが生じる可能性もあります。こうした課題を回避するには、要件定義の精度を上げることが欠かせません。関係者全員の意見を取り入れ、十分な議論と調整を行うことが必要です。

本記事では一般公開されている要件定義書の事例を取り上げながら、改めて要件定義書とはどのようなものか、どんな特徴があるのかを整理しつつ、ROUTE06ではどのような考えで要件定義サービスを行なっているのかをご紹介します。

要件定義書の公開事例

要件定義書は、システム開発プロジェクトで非常に重要な役割を果たす文書です。プロジェクトや組織のニーズによって、要件定義書の構成や内容は大きく変わります。本節では、いくつかの公的機関が実際に公開している要件定義書を例に挙げ、それぞれの事例から読み取れる特徴的なポイントや、要件定義書に求められる要素を解説します。官公庁がシステム開発や協業パートナーを募集する際には、入札書類として要件定義書を公開しています。これらの公開資料から、実践的な参考情報を得ることができます。

事例1: 高齢者向け健康ポイントアプリ設計

札幌市の取り組みと背景

札幌市は2024年5月、「高齢者向け健康ポイントアプリ等の設計・開発業務」を総合評価一般競争入札として公募しました。このアプリは、高齢者が日常的に健康管理を行いながら、ポイントを獲得し、そのポイントを活用できる仕組みを提供するものです。健康寿命の延伸を目指し、運動や健康習慣を身につけやすくすることを目的としています。

アプリの開発においては、セキュリティと個人情報保護が重要視されています。特に、個人情報の取り扱いについては厳格な基準が設けられ、アプリ上では個人情報を管理せず、事務局システムでのみ取り扱う設計になっています。これにより、利用者のプライバシーを守りながら、安全にデータを管理することが求められています。また、開発事業者にはISO/IEC 27001やプライバシーマークの取得が要件として設定されており、これに準拠した高いセキュリティ基準のもとで開発が進められます。

また提案書のプレゼンテーションでは機能要件の説明等に一定の時間が確保されており、単なる技術的な説明だけでなく、高齢者向けのユーザーエクスペリエンス(UX)や運用の信頼性が重視されていることも伺えます。

要件定義書の特徴

本アプリの要件定義書では、主にユーザビリティ・セキュリティ・運用管理の観点から、具体的な要件が定められています。

まず、高齢者が使いやすい設計が求められています。日本のウェブアクセシビリティ規格「JIS X 8341-3:2016(レベルAA)」に準拠し、文字サイズの調整やボタン配置の最適化、色のコントラストの工夫が求められています。直感的に操作できるデザインにすることで、高齢者のデジタルデバイスへの適応をサポートします。

次に、個人情報の管理とセキュリティ対策が明確に定められています。アプリ自体には個人を特定できる情報を保持せず、すべての個人情報は事務局システムで管理される仕組みになっています。これにより、データ漏洩リスクを最小限に抑え、安全性を確保しています。また、開発にあたってはプライバシーマークやISO 27001の取得が義務付けられ、強固なセキュリティ対策が求められています。

さらに、システム障害への対応とデータ管理についても詳細に定められています。万が一、障害が発生した場合には、復旧手順を明確にし、迅速な対応が可能な体制を整えることが求められています。事務局システムでは定期的なデータバックアップが義務付けられており、復旧時間の目標も設定されています。

ポイント管理機能も重要な要素です。歩数や動画視聴、イベント参加などの健康活動に応じてポイントが付与され、貯まったポイントは電子マネーや商品と交換することが可能です。年間の獲得上限を超えたポイントについては、抽選に参加できる仕組みも設けられています。これにより、高齢者が楽しみながら継続的に健康活動に取り組める設計になっています。加えて、利用者のサポート機能として、アプリ内での問い合わせに加え、電話アプリの起動機能も備えられます。これにより、高齢者が困った際にすぐにサポートを受けられる環境が整備されます。

このように、本アプリの要件定義書は、高齢者が使いやすく、安心して利用できる仕組みを実現するための具体的な設計方針を示しています。健康増進を支援しながら、セキュリティや運用の信頼性を確保することが、このプロジェクトの大きな目的となっています。

事例2: 再エネ業務統合システム設計開発

電力広域的運営推進機関による募集概要

電力広域的運営推進機関は2021年7月、再生可能エネルギー(再エネ)業務の統合システムの設計開発および運用保守を一体で調達する一般競争入札を実施しました。本入札の特徴は、クラウドベースのシステムを前提とし、設計開発と5年間の運用保守費用を含めた総価での入札方式を採用している点です。

参加資格として、全省庁統一資格のC等級以上の取得、ISMS認証(または同等の情報セキュリティ管理の実施)、ISO9001(または同等の品質管理の実施)を取得していることが求められました。また、電力事業者や行政機関向けの大規模情報システムの導入および運用実績も必須になっています。これは、本システムが電力業務の効率化とデータ管理の信頼性向上を目的としており、高度なセキュリティ管理と大規模データ処理が前提となっているためです。

要件定義書の技術的特徴

再エネ業務統合システムの要件定義書には、技術的な要件としてデータベース設計、API連携、認証・認可、セキュリティ対策などが詳細に記載されています。特に、外部システムとの連携を想定したAPI設計に関しては、データの取得周期、エラーハンドリング、データフォーマットの標準化などが厳格に定義されています。これにより、データの一貫性を保ちつつ、他のシステムとのスムーズな連携を実現する設計となっています。

また、システムのスケーラビリティを考慮し、マイクロサービスアーキテクチャを採用することで、各機能を独立して拡張・変更可能な設計となっています。さらに、FIP(Feed-in Premium)交付金管理や太陽光発電設備の廃棄等費用の積立管理など、再エネ関連の業務プロセスを統合し、一元管理できる機能が求められています。再エネ業務統合システムは、高いセキュリティ基準と運用の柔軟性を両立し、電力業務の最適化を目指していることがわかります。

事例3: 環境省自然環境局の要件定義書

マイクロチップ登録システムに関する公募

環境省は、2019年6月19日に公布された「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律」に基づき、犬猫へのマイクロチップ装着義務化に伴う情報管理システムの運用を担う指定登録機関を公募しました。このシステムでは、年間約110万件の登録および変更手続きが見込まれています。また、政府の「オンライン利用率の大胆な引き上げ」の方針を受け、90%以上のオンライン利用率を目標として設定されています。

システムの要件としては、クラウド上での構築が前提とされ、ISO27001およびプライバシーマークの取得が必須となるなど、前述の他の事例と同様に情報セキュリティ対策が求められています。さらに、一般社団法人または一般財団法人のみが応募可能であり、初期投資を自己負担できる財務基盤の安定性や、公正な運営能力が応募条件として定められていることが特徴的です。

要件定義書の詳細ポイント

環境省の要件定義書では、機能要件と非機能要件が厳格に分類され、業務フローや操作手順が明確に記載されています。たとえば、マイクロチップの登録プロセスにおいて、データの入力・保管・検索機能が具体的に定義されており、行政機関・獣医師・飼い主といった異なる利用者層に応じた操作権限が詳細に示されています。

さらに、システムの透明性確保のため、操作ログの記録、データ保存期間の明確化、更新方法の指定などが細かく規定されています。これにより、運用フェーズにおいても業務実態に即したシステム利用が可能となり、行政サービスとしての信頼性向上に寄与すると考えられます。

公的機関特有の要件

公的機関が発注するシステム開発では、透明性の確保や規制遵守、セキュリティ対策が非常に厳しく求められる点が特徴です。たとえば、個人情報や環境関連データ、医療・介護関連情報などを扱う場合、法的要件やガイドラインを遵守する必要があり、要件定義書にはこれら要件が詳細に盛り込まれます。

さらに、予算や納期が厳しく定められるケースが多いことから、要件定義書は非常に精密になり、各フェーズでどのような活動や成果物が期待されるかが具体的に示されます。また、ISMS(ISO27001)やプライバシーマークといったセキュリティ認証の取得が要件に含まれることも多く、より厳密なセキュリティポリシーやコンプライアンスに関する詳細な規定が定義書内に含まれるのも、公的機関特有の特徴といえます。

データ保護や透明性確保の観点からは、ログ管理や監査対応の仕組みが厳格に定められ、システムの操作がいつ・誰によって行われたかを明確に追跡できるようにする必要があります。公的な目的で運用されるシステムに適した形で利用されるよう、こうした法的要求や社会的責任に基づく設計思想が求められるのです。

1. 事例から学ぶ要件定義書(ビジネス要件)

以下では、要件定義書に盛り込むべき情報構造と技術要件を包括的に示します。前述の公開に基づいた要件定義書の構造を下敷きにしつつ、システムアーキテクチャやプラットフォーム・環境、データベース設計、セキュリティ、パフォーマンス要件などの技術的要素を具体的かつ専門的に加筆しました。要件定義書を作成する際には、ここで示す内容を適切に参照し、プロジェクト固有の要件を整理することで、開発チームとステークホルダーとの間で合意形成を行い、プロジェクト全体を円滑に進行させることができるでしょう。

要件定義書の目的と基本的な構造

要件定義書の最も重要な役割は、システムが果たすべき役割と、そのために必要な要件を明確にすることです。これにより、開発チームはシステムの設計・実装時に必要となる指針を得て、ステークホルダー間の認識のズレを防止できます。以下の要素が、一般的に要件定義書の基本的な構成として挙げられます。

  • システムの目的
    システム開発の背景や、解決すべき業務課題を明示します。プロジェクト全体のゴールが明確でない場合、後の段階で要件がぶれる可能性が高くなるため、「何のためにシステムを開発するのか」をはっきり定義することが必須です。なお、実務では要望が多岐にわたって煩雑になるケースも多いため、最終的に何を優先実装し、何を段階的に導入するのかをこの段階で方向づけしておくと、後の設計・開発でぶれにくくなります。
  • システムの利用者
    システムを利用するユーザーの種類や役割を定義します。権限レベル(管理者、一般ユーザー、ゲストなど)や操作できる機能の範囲を明確にすることで、セキュリティ対策やUI/UX設計の方向性が定まります。
    特に公的機関や大規模企業では、組織階層や担当業務によって異なる役職が存在する場合があります。権限設計を曖昧にすると、後から「特定のユーザーは本来閲覧不可のデータにアクセスできる」という問題が発生しやすいので、要件定義段階で細かいロール(役割)設定まで目を配る必要があります。
  • 業務要件
    システムが対応すべき業務プロセスを詳細に記述します。業務フロー図やシナリオを用いて、入力から出力までの手順、業務処理の流れをわかりやすく説明し、システムがどのように業務を効率化・自動化するのかを示します。複数部署を横断する業務の場合、それぞれの部門が期待する成果物や処理タイミングが食い違うことがあるため、ステークホルダー全員からのヒアリングを行い、共通認識を形成するよう努めます。
  • 非業務要件
    性能、セキュリティ、可用性、拡張性など、システムが満たすべき非機能的な要件を列挙します。システムが業務要件をどのように支えるかを左右するため、後述する技術要件とも密接に関連します。たとえば、数年後の利用者やデータ量の増加を想定せず最小限のスペックで運用を開始すると、将来的な性能不足や追加コストが膨らむケースがあります。可用性や拡張性といった非機能要件もしっかり検討し、必要な投資や運用方法を見極めましょう。

一般的に、要件定義書は以下のような章立てで整理されます。

  1. はじめに(概要)
    システムの背景、目的、プロジェクトの概要を簡潔にまとめます。ここでシステム開発のゴールを示すことで、要件全体の指針を設定します。

  2. システム概要
    システムが解決する業務上の問題や、想定される運用環境を説明します。必要に応じてアーキテクチャを簡潔に示し、システムの役割を整理します。

  3. 機能要件
    ユーザーが必要とする機能(画面設計、レポート機能、通知機能など)を詳細に定義します。業務フローごとの必要機能をリスト化するほか、ユースケース図を活用することもあります。

  4. 非機能要件
    システムが満たすべきパフォーマンス、セキュリティ、可用性、拡張性などを記述します。障害時のリカバリ手順やシステム運用時の留意事項なども含まれます。

  5. システム設計要件
    アーキテクチャ、データベース設計、API仕様、運用設計といった技術的要件を記載します。システムをどの技術スタックで構築するか、各コンポーネントがどのように連携するかなどを示します。

  6. スケジュール・予算
    システム開発のスケジュール、フェーズごとのマイルストーン、予算配分を詳細に説明します。プロジェクト管理に直接つながる部分であり、リソース計画や進捗管理に役立ちます。

要件定義書に必要な情報構造

要件定義書を作成する際には、どの情報をどのように配置し、どのような粒度で記述するかがプロジェクトの成功を左右します。情報は関係者全員が理解しやすい形で体系的に整理されている必要があります。ここでは特に重要な情報構造を解説します。

システム要件の詳細な分類

システム要件は機能要件非機能要件に大別されますが、それだけでは細かな分析が不十分な場合があります。さらにサブカテゴリを設け体系的に整理することで、開発チームとステークホルダーが「今どの話をしているのか」「どの要件が優先度が高いのか」を判断しやすくなります。

  • 機能要件
    • 業務フロー: 業務フロー図や状態遷移図を使って、システムが介在するプロセスを整理します。ユーザーがどの画面で何を入力し、システムがどのように処理して最終的に何を出力するのかを具体的に示します。
    • UI/UX要件: ユーザーインターフェースの設計方針やユーザーが直感的に操作できるデザイン指針を記載します。フォーム入力のエラーチェックやレスポンシブデザインへの対応なども含まれます。
    • データ処理要件: データの取得、保存、更新、削除、検索など、各種データ処理をどのように行うかを定義します。データベース内のテーブル設計や処理フロー、外部システムとの連携など技術面をつなぐ部分です。
    • レポート機能: どのような集計や分析を行い、ユーザーにどの形式で提示するのかを具体的に記述します。レポートの内容やスケジュール、ダッシュボード表示などの要件も含みます。
  • 非機能要件
    • 性能要件: レスポンスタイムや1秒あたりの処理件数、APIの最大遅延など、システムのパフォーマンス基準を定義します。ピーク時の負荷を想定したテスト計画やシステムリソースの割り当てを考慮し、開発に反映させます。
    • 可用性: システムがどの程度稼働し続けるべきか(稼働率)や、障害発生時の復旧時間(RTO: Recovery Time Objective)、データ損失許容度(RPO: Recovery Point Objective)を記載します。特に公的機関のシステムでは高い可用性が求められることが多いため、冗長構成やクラスタリングが考慮されます。
    • セキュリティ: 認証・認可、暗号化、アクセス制御、監査ログなど、システムを脅威から守るための要件を具体的に定義します。個人情報保護法やGDPRなど、法的遵守が必要な場合は特に厳格なルールが求められます。

なお、実務ではセキュリティの前提条件(例:社内ネットワークのみからのアクセス可、特定クラウドサービスのみ使用可など)を誤解していると、導入後に要件不備が発覚して再設計が必要となります。チーム内外で早めに合意を形成しておきましょう。

ユーザー視点とシステム視点の統合

ユーザーがシステムをどう操作し、システムがどのように応答するかをユーザー視点とシステム視点の両面から定義することで、使いやすく安定したシステムを実現できます。

  • ユーザー視点
    UI/UX要件、操作フロー、エラーメッセージ表示など、ユーザーが直接触れる部分を中心に定義します。高齢者向け健康ポイントアプリの事例のように、文字サイズやカラーコントラスト、ワンクリック操作などバリアフリー設計が注目される場合もあります。要件定義の際は、ユーザーが日常的に感じている小さな不満(操作ステップが多い、エラーがわかりにくい等)を丁寧に拾い上げると、システムの受容度が飛躍的に高まるケースがあります。
  • システム視点
    バックエンドでの処理方法やデータベース、APIインターフェースの設計など、内部的な動作を定義します。再生可能エネルギーの統合システムの事例のように、複数の外部システムと連携する場合はAPI設計やデータフローが技術的要件として詳細に定められます。技術者間でも認識がずれることは珍しくないため、データのフォーマットやエラー処理規約などをドキュメント化し、開発チーム内で共通言語を持つように心がけます。

変更管理と進捗管理の仕組み

要件定義書は、プロジェクト進行中に変更が発生する可能性が高いため、変更管理のプロセスを事前に定義することが重要です。また、進捗管理の仕組みが明確でないと、プロジェクト全体の見通しが悪くなるおそれがあります。

  • 変更管理
    変更リクエストの提出方法、影響範囲の評価、スケジュールとコストへのインパクト、承認フローをドキュメント化しておくことで、想定外の変更がプロジェクトに及ぼすリスクを最小化します。特に利害関係者が多いプロジェクトでは、要件追加や大幅変更の承認プロセスをあやふやにするとトラブルの原因になります。要件定義書とあわせて、変更申請テンプレートやレビュー会議のスケジュールを共有しておくと便利です。
  • 進捗管理
    プロジェクトが予定通り進んでいるかを評価するためのレビュー会議の頻度、進捗報告書の提出方法、スプリントレビュー(アジャイルの場合)などを定義し、リスクを早期に発見し対処できる体制を整えます。実際の現場では、立てた計画と実際の状況が乖離することも少なくありません。ある程度のバッファを見積もりながら、フェーズ単位で進捗を振り返り、次フェーズの見通しを修正する柔軟性が求められます。

データの標準化と一貫性

システム開発で扱うデータが複数部門や外部機関から提供される場合、データのフォーマット統一や一貫性が非常に重要です。

  • データフォーマット
    日付や数値の形式、文字コード、ファイル形式などを統一し、システム間のデータ交換をスムーズにして、データ変換や互換性に関する問題を最小化します。
    開発途中でデータ形式を変更すると、関連するモジュールや外部システムの修正が必要となり、大きな手戻りコストが発生しがちです。初期設計の段階でしっかり固めることを意識しましょう。
  • データの一貫性
    データベース設計における外部キー制約やバリデーションルールなどを設定し、データが整合性を保ちながら処理されるようにします。公的機関のシステムでは多くの規制や監査要件があるため、データの正確性がとくに重視されます。たとえば、監査ログや履歴管理の要件によっては、削除を実行せず「論理削除」とする運用を求められる場合もあります。実運用上のルールを早期に定義しておくことで、後から大幅な構造変更を避けられます。

法的要求とコンプライアンス

公的機関や特定業種のシステム開発では、法令やガイドラインに基づく要件を満たさなければなりません。たとえば、個人情報保護法やGDPR、金融庁や厚労省のガイドラインなどが該当します。

  • データ保護法
    個人情報を扱うシステムの場合、取り扱いデータの分類、保護レベル、保存期間、取得・消去ルールなどを法的要件に沿って明確化します。特に個人情報をデータベースで管理する場合、暗号化やアクセス制御のルールを厳しく定義する必要があります。実際には、取得したデータの利用目的を利用者に明示するかや、同意の管理方法(オプトイン/オプトアウト)なども重要な検討項目です。要件定義段階で法務部門や専門家と連携し、運用レベルの留意点まで反映させましょう。
  • 監査とログ管理
    システムの操作履歴や異常検知が可能な監査ログを取得し、監査対応を行うルールを示します。誰がいつ何を実行したのかを明確に記録し、必要に応じてレポート化することで、コンプライアンス要件を満たしつつセキュリティリスクを低減できます。監査ログの保持期間や保管先を定義しなかった場合、運用開始後に監査対応コストが想定以上に膨らむケースがあります。監査ログのフィルタリングやアーカイブポリシーを決めておくと、運用負担の最適化に役立ちます。

実務では必ずしも法的要求を充足させれば良いとは限らず、システムのユーザー/運営企業の社内レギュレーションや社会文化的な要求も考慮に入れておくことが重要になります。

2. 事例から学ぶ要件定義書(技術要件)

また要件定義書では、機能要件や非機能要件を整理した後、システムをどう技術的に実装するかを示す技術要件を明確に定義する必要があります。技術要件は、大まかな構想だけでなく「誰が、いつ、どのように運用するか」といった運用視点も加味しながら作成すると、開発後の運用トラブルを未然に防ぎやすくなります。例えば、開発チームが利用するフレームワークを選定する際に「保守性が高いか」「将来的にバージョンアップやサポートはどうなるか」も考えておくと、リリース後の継続運用に役立ちます。

以下では、技術要件として考慮すべき主要な項目をさらに細分化して解説します。

システムアーキテクチャ

システムアーキテクチャでは、システム全体を複数のコンポーネントに分割し、それらのコンポーネントがどのように相互作用するかを定義します。技術要求の観点で注目すべき要素は以下の通りです。

  • モジュール構成
    クライアントとサーバを分離することでUIとビジネスロジックを明確に区分する例や、マイクロサービスアーキテクチャを採用して各サービスを独立開発・デプロイ可能とする例があります。冗長化と拡張性に配慮し、サービス同士の依存関係も整理します。マイクロサービス導入時に気を付けたいのは、サービス同士が密結合しないようにAPIやメッセージングの契約を慎重に定義することです。サービス間のインターフェースが頻繁に変わり、連携テストのたびに大幅な改修が必要となって工数超過につながることもあります。最初に境界をしっかり定義し、APIスキーマも含めて要件定義書に落とし込むとよいでしょう。
  • インターフェース設計
    各モジュールがどのような技術(API、メッセージング、RPCなど)で通信するのかを定義し、フォーマット(JSON、XMLなど)や認証方式を含めて設計します。外部システムとの連携が必要な場合、APIや通信プロトコルも要件定義書で明確にします。RESTやGraphQLなどの選定は早期に固めておくのが理想です。クライアント実装側との間で「どのデータをどのくらいの粒度で送受信するか」をすり合わせずに進めると、後からUI変更に合わせてAPIを大幅修正するリスクが高まります。

プラットフォームおよび環境

システムが稼働するプラットフォームや環境は、開発・テスト・本番の各段階で異なる要件になる場合があります。以下の観点が重要です。

  • オペレーティングシステム
    Windows、Linux、macOSなどOSの種類とバージョンを記述し、サポートポリシーやライフサイクルに言及します。
  • ハードウェア要求
    必要なサーバやストレージ、ネットワーク機器を特定し、CPUコア数やメモリ容量、ディスク容量などを要件として示します。
  • クラウドサービス
    システムをAWSやAzure、Google Cloudなどクラウド上で稼働させる場合、利用するサービス(仮想マシン、コンテナ、データベース、ロードバランサーなど)の設定や構成を明確にします。

例えばクラウド移行プロジェクトでは、同じEC2インスタンスを使っていても業務システムの種類や負荷に応じて必要なスペックが大きく異なることがあります。定期的な負荷テストとモニタリングを要件定義段階から計画しておくことで、適切なインスタンスタイプへスケールアップを迅速に行えるようになります。

データベース設計

システムが扱うデータの種類や量、処理方式に応じて最適なデータベース選択と設計が異なります。以下の内容を技術要件として明示します。

  • データベースタイプ
    リレーショナル(Oracle、MySQL、PostgreSQLなど)かNoSQL(MongoDB、Cassandra、Redisなど)か、時系列データベースやGraph DBを採用するかを定義し、選定理由を記します。
  • スキーマ設計
    テーブル設計や正規化、インデックス設計など、データの構造を整合性よく管理する方法を具体的に示します。パーティション分割やシャーディングを行う場合、その方針も併記します。
  • データ処理
    データの取得や保存、更新、削除をどのようなロジック・トランザクション制御で行うかを示します。大規模データを扱う場合、バッチ処理とリアルタイム処理の使い分けも要件として定義します。

観点として「運用・保守での問い合わせ頻度が高いテーブルはインデックス設計を手厚くする」「更新が頻繁なテーブルは過度の正規化を避けて性能を重視する」など、プロジェクトに応じてメリハリをつけるのがポイントです。大規模データでは分散処理基盤と組み合わせるケースもあるため、要件定義の際にデータのライフサイクルを整理しておくと後工程がスムーズに進みます。

セキュリティ要求

セキュリティ要求は、公的機関のシステムや金融・医療などの分野でとくに厳しく求められます。どのように攻撃から防御し、どんな技術を使ってセキュリティを担保するのかを詳細に定義します。

  • 認証と認可
    シングルサインオン(SSO)や多要素認証(MFA)、OAuthなどの方式を採用する場合、仕組みと対象範囲、ユーザー権限の階層を定義します。
  • 暗号化
    データの保存や転送時の暗号化方式(TLS/SSL)やデータベースの暗号化(Transparent Data Encryptionなど)を明記します。
  • 脆弱性対策
    SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)、CSRFなど代表的な脆弱性への対策方針や、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)の利用、脆弱性スキャンツールの導入を明示します。

特に決済などの個人情報を取り扱うシステムでは、監査ログや連携先への暗号化通信、厳格な認証プロトコルなど、細部にわたるセキュリティ要件が後から追加される場合が多々あります。要件定義の早期に関係部署と共有し、漏れやダブりがないように細かいチェックリストを使った確認作業が効果的です。

パフォーマンス要求

システムが要求される性能を満たすための要件を明確に定義します。具体的な数値を設定し、テストや監視計画と連動させることで、開発・運用時の最適化が可能となります。

  • レスポンスタイム
    ユーザーが入力したリクエストに対して、どの程度の時間で応答すべきか(例:1秒以内)を示します。画面描画までの総時間を指定する場合もあります。
  • スループット
    1秒あたりに処理できるリクエストやトランザクション数を明示します。ピーク時の負荷を想定した値を設定し、余裕ある設計を目指します。
  • スケーラビリティ
    負荷が増えた場合、どのようにシステムを拡張・スケールするのかを示します。クラウドのオートスケーリングやロードバランサー、コンテナ技術を活用するケースが増えています。

ECサイトの開発プロジェクトでよくある例として、セール期間中や予約販売などのアクセス集中を過小に見積もり、特別な日に限ってサイトが落ちてしまい、売上機会を逃すことが挙げられます。Shopifyなどの負荷に強いSaaSを用いる場合を除き、急激な負荷変動に十分配慮する必要があります。こうしたケースではクラウドのオートスケールやサーバレスアーキテクチャを活用し、繁閑差に応じて自動的にリソースを調整できるよう要件定義に盛り込むと、コストと性能の両立が図れます。

障害対応および冗長性要求

システム障害が発生した場合、サービスをどのように維持・復旧するのかを定義します。可用性要件が高い場合、冗長構成による耐障害性が求められます。

  • フェイルオーバー
    コンポーネントが障害を起こした場合、他のコンポーネントが自動的に機能を引き継ぐ仕組みを定義します。アクティブ-スタンバイ構成やクラスタリング方式を示します。
  • バックアップ
    データのバックアップ方法、取得頻度、保存場所を明文化します。万一データが破損したり災害が起きたりしても迅速に復旧できるよう、リストア手順やバックアップ検証のルールを記載します。

オンプレミス環境からクラウドへの移行時に、バックアップポリシーを見落として事後対応が必要になることがあります。「どのデータを、どの拠点で、どの期間保存するのか」を明確にしないまま運用を開始すると、いざ災害や障害が起きたときに担当者が混乱しやすいです。クラウドストレージや複数リージョンへのバックアップ設計を、要件定義書の段階で関係者と合意しておくことが大切です。

開発・運用ツールと環境

システム開発と運用に関わるツールや環境を定義することで、プロジェクト全体の効率化と品質管理に貢献します。

  • 開発ツール
    使用するプログラミング言語やフレームワーク、IDE、デバッグツールを列挙し、それぞれのバージョンや互換性を確認します。
  • CI/CDツール
    自動ビルドやテスト、デプロイを行うツール(例:Jenkins、GitLab CI、CircleCIなど)を定義し、パイプライン構成やテスト自動化の方針を明確にします。
  • 運用ツール
    本番運用時のサーバ監視やログ分析に使うツール(Prometheus、Grafana、ELKスタックなど)を指定し、監視項目(CPU使用率、メモリ使用率、ディスク容量など)やアラート設定を定義します。

ツール選定時に「社内に知見があるかどうか」や「チームの新しいツールへの学習意欲は高いかどうか」を軽視すると、運用フェーズで追加コストが発生することがよくあります。導入にあたっては社内トレーニング計画やドキュメント整備などのフォローアップも要件定義書に含めておくことで、チーム全体が新ツールを円滑に受け入れやすくなります。近年では日々便利な開発管理ツールが登場しており、社内の知見者に頼る場面よりも新しいツールのオンボーディングを支援するケースが増えています。

テストおよび品質保証要求

システムが要件を満たすかを確認するには、テスト計画と品質保証のプロセスを要件定義書に盛り込むことが重要です。

  • ユニットテスト
    各コンポーネントが個別に正しく機能するかを確認するテスト手順を明確化します。ターゲット機能やテストデータ、合否基準を具体的に示し、再現性と精度を高めます。
  • 統合テスト
    システム全体が連携して期待通り動作するかを検証します。機能ごとのシナリオを作成し、実際の業務フローに沿ったテストを実施し、問題があれば早期に対応します。
  • パフォーマンステスト
    設定されたパフォーマンス目標(レスポンスタイムやスループット)を満たしているかを検証します。JMeterやLoadRunnerなどのツールを使い、ピーク時を想定した負荷をかけてボトルネックを洗い出し、調整することが大切です。

大規模プロジェクトでは、テスト計画が遅れてしまうと後戻りが増大し、スケジュールと予算に大きく影響を及ぼします。要件定義書に「テストデータの用意方法」や「本番同等の検証環境をいつまでに準備するか」などを明確に記載しておくと、テストフェーズでの混乱を軽減できます。

要件定義書事例にみられるように、明確かつ詳細な要件定義書を作成することは、システム開発の成功へ直結します。業務フローや機能要件、非機能要件、法的要件などを明確にするとともに、システムアーキテクチャやプラットフォーム、セキュリティ、パフォーマンス、障害対応、開発・運用ツールといった技術的要素を具体的に定義することで、プロジェクト全体の進行をスムーズにし、最終的な品質向上を図ることができます。

さらに要件定義書は、開発中の変更や追加要件に対応するための「動的な文書」であると捉え、変更管理プロセスや進捗管理の仕組みを明示しておくことも不可欠です。プロジェクトのスケジュールと予算を踏まえながら、ユーザー視点とシステム視点を総合的に統合し、コンプライアンス要件も網羅した要件定義書を完成させることで、開発チームとステークホルダーが同じ目標に向かって協力できる体制が整うでしょう。

要件定義書の今後の展望

ご紹介した事例や要件定義の構造は、過去から現在まで一般的に議論されてきた内容です。一方で、要件定義書は技術の進化に伴って変化しています。アジャイル開発手法の普及やクラウド化、マイクロサービス化が進むなか、要件定義書のあり方も大きく変わりつつあります。今後、要件定義書がどのように進化していくのかについて言及したいと思います。

アジャイル開発と要件定義

アジャイル開発は、ウォーターフォール型の開発手法と異なり、要件定義書を一度作成して終わりではなく、短期間での反復的な変更や調整を前提としています。これにより、要件定義書は柔軟性を持ち、開発の過程で進化し続けるドキュメントとして機能します。アジャイル開発では、要件定義を一度で完璧に仕上げるのではなく、スプリントごとに小さな変更を積み重ねていくことが一般的です。

アジャイル開発の現場では、要件が揺れ動くことを前提とした「計画しつつも計画に縛られすぎない」姿勢が求められます。要件定義書も同様に、最初からすべてを固めてしまうよりは、大枠を押さえながらも優先度やリスクを随時見直すほうが実務ではうまくいく場合が多いでしょう。逆に、アジャイルを掲げていても要件が変わりすぎると開発チームが混乱し、ドキュメントの更新も追いつかなくなる可能性があるため、変化のコントロールも重要です。

近年の実務では、特定モジュールではアジャイル的アプローチを求められる一方、基盤システムにはウォーターフォール型の手法が期待されるなど、開発手法の境界が曖昧になりつつあります。今後はチームやプロジェクトごとに最適なマネジメント手法とドキュメント管理を柔軟に組み合わせる動きがさらに進むでしょう。

クラウド化とマイクロサービス化

クラウド化やマイクロサービス化が進むなかで、要件定義書はこれら技術的背景を反映する形で進化しています。クラウドサービスではインフラの提供元が異なるため、要件定義書にはクラウド上で動作するシステムの要件やスケーラビリティ、可用性に関する要素が追加されます。また、マイクロサービスアーキテクチャを採用する場合、システム全体を細かいサービスに分割し、それぞれが独立して動作するための要件を盛り込むことになります。

マイクロサービスは「小さく作って素早く展開する」思想が強調される一方で、各サービス間のAPI連携やデータの流通、セキュリティなど、要件定義がより細分化・複雑化しやすいという側面もあります。要件定義書を用いて、どのサービスがどの機能を担うのか、障害が発生したときにどのようにフェイルオーバーするのかを明確にしておかないと、サービス同士の依存関係や境界があいまいになりがちです。また、クラウドはリソースを動的に増減できるメリットを生かす設計が求められるため、要件定義書にはピーク時の負荷や急なトラフィック増をどのように吸収するかなど、拡張性や可用性に関する具体的な記述が増えるでしょう。

AIによる自動化と高度生成

近年、AIを活用した要件定義書の作成支援ツールが登場しており、要件定義をより効率的かつ精度高く行えると期待されています。AIを活用することで、要件定義の自動生成や過去のプロジェクトデータに基づく推奨要件の提示が可能となり、さらに高度な生成が実現するでしょう。AIによるエージェントワーク化が進むことで、要件の検証やフィードバックを迅速に行い、品質を向上させることも考えられます。

AIが提案する要件をベースに短時間で初期ドラフトを作成し、人間が検証や調整を行うというハイブリッドなワークフローが今後広がるかもしれません。とくに開発経験が浅いチームにとっては、AIが提示する「過去の類似プロジェクトの要件やベストプラクティス」は大きな助けとなるでしょう。ただし、ビジネスや組織独自の事情、規制要件といった部分はAIだけでは十分に汲み取れないことがあるため、最終的な判断と責任はやはり人間が持つ必要があります。また、AIの提案を鵜呑みにしてしまうと、無自覚に要件が肥大化したり、現場の文化にそぐわない要件が紛れ込んだりするリスクもあるため、開発者やステークホルダー同士の対話や合意形成がいっそう重要になるでしょう。

要件定義やシステム開発に向き合うベンダーは、これらの変化に柔軟に対応し、最新の技術を取り入れながら、より効果的な要件定義書を提供していくことが求められています。特にアジャイル開発やクラウドネイティブアーキテクチャ、さらにAIエージェントの活用などに対応するには、従来のウォーターフォール型の発想だけでは不十分です。開発プロセスやドキュメント管理の方法自体を常に見直し、チーム全員が要件定義書を“使いこなせる”状態を維持する工夫が必要になります。

総じて今後の要件定義書では、以下のようなポイントが重要になると考えられます。

  • 継続的な要件検証とドキュメント更新: 大規模な契約ベースの要件定義書だけでなく、小刻みなアップデートを前提とした「ドキュメント連携」に重点を置く流れが加速していくでしょう。
  • 人間中心+AI補助: AIが提示する情報をベースに、最終的な判断や妥協点を決めるのは人間です。ビジネス背景や組織文化、コンプライアンス要件をうまく盛り込みながら、プロジェクトに最適化された要件定義書が必要になります。
  • サービス単位の要件最適化: マイクロサービス時代は、サービスごとに異なる要件(スケーラビリティ重視、セキュリティ重視など)を個別に最適化するケースが増えています。従来よりも全体統括と部分最適のバランス感覚が重視されるようになるでしょう。

こうした変化の最中であっても、要件定義書が果たすべき根本的な役割、すなわち「開発チームとステークホルダー間で共通のゴールや認識を形成する」という点は変わりません。むしろ技術革新や働き方の多様化に伴い、よりいっそうその重要性は高まっているといえるでしょう。

ROUTE06が提供する要件定義

テクノロジーが絶えず進化していくなかで、システム開発の成功を左右するのが要件定義です。ROUTE06では、これまで大手企業のDXプロジェクトを中心に要件定義を支援してきました。そのなかで私たちは特に「業務要件の質を高める」ことに力を入れています。

私たちが考える要件定義は、プロジェクト全体を支えつつ、複数の関係者と連携して複雑なシステム開発でもスムーズなコミュニケーションを実現すること。そしてその結果、要件を高い精度で定義していくことを目標としています。具体的には、業務要件を細かく整理してデータ化するアプローチにより、開発の初期段階から関わるすべての人が同じ認識を共有しやすい環境を整えようとしています。

1. 業務要件の最適化

ROUTE06の要件定義サービスでは、まず「現行業務(As-Is)」と「理想の業務プロセス(To-Be)」のあいだにあるギャップを丁寧に分析します。そうすることで、どこをどう改善すれば業務がスムーズになるのかが可視化され、開発するシステムの方向性がはっきり見えてくるのです。

さらに、この業務要件整理では、多様な関係者と協力しながら業務フロー図を一緒に作成していきます。これによってクライアントが抱えるビジネスニーズや業務改善の意図が、システム要件にしっかりと反映されやすくなります。また、業務フローやプロセスを分析することで「システム化する業務」と「システム化しない業務」の境界線が明確になるのも大きなメリットです。結果として、本当に必要な部分をシステムに落とし込めるので、プロジェクト全体のゴールである「業務の最適化」がしっかり達成され、最終的な成果物の品質向上にもつながります。

理想の業務プロセス(To-Be)の設計においては、ビジネス要件を理解するだけではなく、最新のソフトウェア技術やツールで何をどこまで実現可能なのかを把握しておくことも重要です。私たちは社内のUI/UXデザイナーやソフトウェアエンジニアだけでなく、さまざまなソフトウェアベンダーと協議を重ねることで、その品質を高めるよう努めています。

2. 要件データのマネジメント

ROUTE06では、要件をデータ化してドキュメントを自動生成する仕組みづくりにも注力しています。こうした仕組みがあると、プロジェクト/プロダクトマネージャーは要件定義書を作成するための工数を大幅に削減でき、プロジェクト全体の進行管理をより効率的に行えるようになります。

データ化された要件は、プロジェクトが進む中で変更や追加があった場合にも柔軟にアップデートできます。GitHubなどのツールを活用し、仕様などのドキュメントが更新されるため、関係者全員が常に最新情報および変更差分を把握しやすくなり、バージョン管理も容易です。

従来はExcelやWordといったツールで個別に管理していた要件情報を、新たにデータベースやクラウド上に一元管理することで、いつでも誰でも必要な情報にアクセスしやすくなりました。今後は生成AIによる自動化を視野に入れ、さらなる効率化と正確性の向上を目指しています。

3. パートナーコラボレーション

システム開発には多様な技術やベンダー、ツール、プラットフォームが関わります。ROUTE06の要件定義サービスでは、こうした複雑なプロジェクト環境でもスムーズに連携できるツールの活用やプロジェクト推進にこだわり、開発が滞りにくい体制を整えています。

ROUTE06の要件定義書にはAPI設計やインターフェース要件、システム統合に必要な情報を詳細に盛り込んでおり、異なるベンダー同士でも合意を得やすく、開発現場でのコミュニケーションがスピーディーに進む点が大きな強みです。特に、複雑なシステムやプラットフォームを統合するプロジェクトでは、要件の理解不足がトラブルにつながりやすいため、明確なドキュメントが欠かせません。

また、複数のツールやシステム間の要件を一貫して管理するために、統一されたドキュメント形式を採用し、ツール間のデータ整合性を担保しています。その結果、プロジェクトの進捗をリアルタイムで把握しやすくなり、開発の過程での調整もスムーズに行えるようになります。

システム開発を成功に導く要件定義

要件定義書は、システム開発の土台として非常に重要な存在です。その精度と柔軟性がプロジェクト全体の成功を左右するといっても過言ではありません。ROUTE06は、「業務要件の精緻化」「要件のデータ化と自動生成」「ベンダーやツールとの円滑なコラボレーション」を通じて、初期段階から効率的かつ効果的な要件定義を提供しています。

その結果として、要件定義の品質が高まり、開発チームはスムーズにプロジェクトを進められます。アジャイル開発の普及やAI技術の活用が進むこれからの時代には、要件定義のプロセス自体も進化し、プロジェクトの柔軟性やスピードはさらに高まっていくでしょう。ROUTE06は、こうした新しい流れにも対応できるアプローチを追求し続け、みなさんのシステム開発を成功へ導くパートナーでありたいと考えています。