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要件定義における受け入れ基準(Acceptance Criteria)の策定方法

公開日

2024.12.23

要件定義における受け入れ基準(Acceptance Criteria)の策定方法のサムネイル

システム開発プロジェクトで「この機能は本当に完成したのか?」と悩んだ経験はありませんか?受け入れ基準(Acceptance Criteria)は、要件定義において不可欠な要素です。明確な基準を持つことで、チーム全体の認識を一致させ、手戻りを防ぎ、スムーズなリリースを実現できます。本記事では、受け入れ基準の重要性から、策定方法、注意点、具体的な事例までを解説します。

受け入れ基準(Acceptance Criteria)とは

受け入れ基準は、ソフトウェア開発において、特定の要件が満たされているかどうかを判断するための具体的な条件のことです。これにより、要件の不明瞭なままの進行を防ぎ、開発の方向性を明確にし、スムーズなテストおよびリリースを可能にします。

受け入れ基準の役割

受け入れ基準には、以下のような重要な役割があります。

  • 要件の明確化:開発者、テスター、ビジネス担当者の間で、共通の理解が得られるようにする。
  • テストの基準設定:テストの合否判定が明確になるため、品質保証が容易になります。
  • スコープ管理:プロジェクトの範囲を明確化し、不要な機能の追加を防ぎます。
  • コミュニケーションの促進:チーム間の認識を一致させ、全員が同じゴールを目指せるようにします。

これにより、チーム全体の生産性が向上し、要件の変更による手戻りが減少します。

受け入れ基準の種類

受け入れ基準には、プロジェクトの特性や要件に応じて、さまざまな種類があります。

基準の種類 説明
機能要件の基準 特定の機能が意図どおりに動作するかを確認する基準。 「ログイン機能は、正しいIDとパスワードが入力された場合、ユーザーがダッシュボードに遷移すること」
非機能要件の基準 性能、セキュリティ、可用性、スケーラビリティなど、機能以外の要件に関する基準。 「APIはリクエストを2秒以内に応答する必要がある」
UI/UXの基準 ユーザーインターフェースの見た目や操作性に関する基準。 「エラーメッセージは赤色のテキストで表示される」や「ユーザーは3回のクリック以内に目標のページに到達できる」
制約に関する基準 プラットフォームの制限、互換性、法的要件、ライセンス条件などに関する基準。 「アプリはAndroid 10以上で動作する必要がある」

これらの基準を明確にすることで、要件の不明確さを減らし、すべての関係者が一貫した理解を持つことができます。

受け入れ基準の策定手順

受け入れ基準の策定は、要件定義の中でも極めて重要なプロセスです。ここでは、具体的な手順を解説します。

1. ユーザーストーリーの明確化

受け入れ基準は、ユーザーストーリーに基づいて作成されます。ユーザーストーリーは「誰が、何を、なぜ行うか」を明確にするものであり、受け入れ基準の基礎を成します。具体的には、ユーザーの課題、動機、行動の流れを明示することで、基準の土台を固めます。例えば、「登録ボタンを押すと、5秒以内に登録完了のメッセージが表示される」といった形で、具体的な条件が含まれます。

2. ステークホルダーとの協議

受け入れ基準は、プロダクトオーナー、開発者、テスター、ビジネスアナリストなどのステークホルダーと協議して決定します。さまざまな視点を考慮することで、抜け漏れのない基準を作成できます。協議の際には、各ステークホルダーが納得するまで繰り返しレビューを行い、共通認識を醸成することが重要です。このプロセスにより、後工程での手戻りを最小限に抑えることができます。

3. SMARTな基準の策定

基準は、SMARTの原則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)に従って作成する必要があります。以下は各要素の詳細です。

SMARTの原則 説明
Specific(具体的) あいまいな表現を避け、具体的な条件を明示します。 「ページは2秒以内にロードされる」
Measurable(測定可能) テスト可能な数値や基準を設定します。 「エラーメッセージは赤色で表示される」
Achievable(達成可能) 現実的に達成可能な条件を設定します。過度な要件はプロジェクトのリスクを増大させます。
Relevant(関連性のある) プロダクトのゴールやビジネス要件に関連する基準を優先します。
Time-bound(期限が明確) 期限やタイミングを明確にします。 「リリース日までに完了する必要がある」

4. 具体的なテストシナリオの作成

受け入れ基準はテストと直結しています。テストシナリオは、受け入れ基準が満たされているかどうかを検証するための具体的な手順です。これにより、基準が曖昧な場合に判定を容易にします。シナリオには、テストの前提条件、手順、期待される結果が含まれます。たとえば、「ログインフォームのテスト」では、正しいIDとパスワードを入力した場合はダッシュボードに遷移し、誤ったIDが入力された場合はエラーメッセージが表示されるといったテストケースが作成されます。

5. ドキュメント化と共有

受け入れ基準は、関係者がアクセスできるようにドキュメント化し、共有する必要があります。これにより、基準の変更があった場合でも、全員が最新情報を参照でき、情報の不一致が防止されます。ドキュメントには、バージョン管理を導入し、変更履歴を明確にすることが推奨されます。加えて、プロジェクト管理ツール(Jira、Confluenceなど)を活用して、基準が常に参照可能な状態を保つことも効果的です。

受け入れ基準の事例

実際の受け入れ基準の事例をいくつか紹介します。これにより、受け入れ基準がどのように記述されるべきかが明確になります。具体的な基準の例は、機能別に示されています。

ログイン機能の基準

  • 成功時の動作
    • ユーザーが正しいIDとパスワードを入力した場合、システムは3秒以内にダッシュボードを表示すること。
    • ログイン成功後、ユーザーの名前が画面右上に表示され、セッションが有効になること。
    • 初回ログイン時には、パスワードの変更を求めるメッセージが表示されること。
  • エラー時の動作
    • 不正なIDまたはパスワードが入力された場合、エラーメッセージ「IDまたはパスワードが正しくありません」が赤色のテキストで表示されること。
    • 5回連続でログインに失敗した場合、アカウントがロックされ、パスワードリセットの案内が表示されること。

フォーム入力機能の基準

  • 入力検証
    • 必須項目が未入力の場合、赤色のエラーメッセージが該当の入力欄の下に表示されること。
    • 入力フォーマットが不正な場合(例:メールアドレスの形式エラー)、赤色のエラーメッセージが表示され、該当の入力欄が赤枠で囲まれること。
    • エラーがすべて修正された場合は、エラーメッセージが消えること。
  • 送信処理
    • フォームが正しく入力されて送信された場合、3秒以内に「送信が成功しました」のメッセージが表示されること。
    • フォーム送信時に処理中のローディングアニメーションが表示され、処理が完了すると自動的に消えること。
    • フォームの再送信を防止するため、送信後は送信ボタンが非活性化されること。

APIの応答時間

  • 応答性能
    • APIは、リクエストを受信してから2秒以内にレスポンスを返すこと。これは、100件のデータを返す場合も同様とする。
    • 負荷テストにおいて、同時に100リクエストを処理しても、応答時間が5秒を超えないこと。
  • エラーハンドリング
    • サーバーエラー(500系エラー)が発生した場合、クライアントは「システムエラーが発生しました。時間をおいて再度お試しください」というメッセージを受け取ること。
    • クライアント側のリクエストが不正(400系エラー)の場合、エラーメッセージが含まれたJSONレスポンスが返され、エラーの詳細がerror_codeとして提供されること。

これらの事例は、具体的な受け入れ基準のイメージをつかむための参考例です。各プロジェクトの要件や目的に応じて、より詳細な基準が求められる場合があります。

まとめ

受け入れ基準は、システム開発プロジェクトにおいて不可欠な要素です。基準が曖昧だと、手戻りが発生し、品質も低下します。ユーザーストーリーの明確化、SMARTの原則に基づく基準作成、ステークホルダーとの協議を行い、チーム全員の合意を得ることが重要です。受け入れ基準を適切に定義することで、スムーズなテスト、リリース、そしてプロジェクト全体の成功が期待できます。

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