はじめに
データが企業の意思決定において中心的な役割を果たす時代、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールは進化を続けています。その中で、AI技術の導入によりBIツールはさらに強力なものとなり、データ分析のプロセスを効率化し、新しい可能性を切り拓いています。本記事では、主要なBIツールであるTableau、Power BI、Looker Studio、Amazon QuickSightに焦点を当て、それぞれのAI機能とその利用シーンを解説します。
BIツールの進化とAIの役割
BIツールは従来、データを可視化することで意思決定を支援する役割を担っていました。しかし、データ量の増加や分析の高度化に伴い、単なる可視化ではなく、データそのものからインサイトを得る能力が求められるようになりました。ここでAI技術が鍵となります。AIは膨大なデータを迅速に分析し、ユーザーに具体的なアクションプランを提示することが可能です。これにより、BIツールはただのデータビジュアライゼーションツールから、ビジネス戦略を支える中核的な存在へと進化しました。
主要BIツールのAI機能解説
Einstein Discovery in Tableau
Einstein Discovery in Tableauは、ワークシート、計算項目、フローで Tableauデータの予測と改善を提供しています。
Tableau ダッシュボードでの予測の取得
Einstein Discoveryのオンデマンドの説明可能な予測を Tableau ダッシュボードにネイティブに統合します。Einstein Discoveryダッシュボード拡張機能では、動的予測をワークシートに組み込み、パラメーターを使用して「What if」予測シナリオを探索できます。
Tableau の計算項目での予測の取得
計算項目でEinstein Discoveryの予測を簡単に取得できます。モデルマネージャーで、予測定義を選択して Tableauスクリプトを生成し、スクリプトをコピーして Tableauの計算項目に貼り付けるだけです。
Tableau フローへの Einstein 予測の組み込み
Tableau Prepの予測ステップを使用して、Einstein Discovery予測をフローに直接含めます。予測、および必要に応じて改善や上位の要素を使用してフロー出力を強化します。
Tableau Agent
自然言語を活用したAIアシスタントでTableauのデータ操作を効率化します。ユーザーは「売上成長率を計算する式を作成して」などの指示を入力するだけで、AIが自動的に計算式を生成します。また、データアセットやワークブックに関する説明を作成する機能も備え、モデルの複雑さを解消しチーム全体での理解を促進します。これらの機能により技術的スキルがないユーザーでも高度な分析が可能です。さらに、インサイトの提示やダッシュボードのカスタマイズも直感的に行えます。
Tableau Pulse
Tableau AIを活用してデータのリアルタイム変化を監視し、重要なインサイトを迅速に共有するツールです。組織の重要なKPIやトリガーに基づき、異常値やパフォーマンスの変化を Slackやメールで即座に通知。さらにAIが変化の背景を分析し、次のアクションを提案します。これにより意思決定プロセスを迅速化し、データドリブンな業務運営を可能にします。Tableauダッシュボードと連携して、分析結果をシームレスに共有・活用できるのが特徴です。
このように豊富なTableauのAI機能ですが、Einstein Discoveryはデータの深い洞察や予測分析を提供し、Tableau Agentはその洞察を操作・活用するための直感的なインターフェースを提供します。一方、Tableau Pulseはリアルタイムでデータの変化を監視し、即時に通知することで迅速な意思決定を支援します。これらは補完的に連携し、たとえばEinstein Discoveryが売上減少の要因を特定し、Tableau Agentが関連する計算式やレポートを作成、さらにPulseが異常を通知する、といったかたちでシナジーを発揮します。
Gemini in Looker
Gemini in Lookerは、Google Cloudが提供するAI統合型データ分析ツールで、以下の5つのアシスタンス機能を通じてデータ分析や可視化プロセスを効率化し、技術的スキルが少ないユーザーでも直感的にデータ活用を進められる環境を提供しています。
カスタムLookerビジュアライゼーションの生成
自然言語入力を活用し、Lookerでのデータ視覚化をカスタマイズします。ユーザーが特定のデータセットや条件を指定することで、AIが即座に適切なグラフやチャートを生成します。
LookMLモデリングパラメータの生成
GeminiはLookML(Lookerのデータモデリング言語)の設定を簡素化します。ユーザーが必要なパラメータを自然言語で指示することで、AIが複雑な設定を自動で構築し、データモデル作成を効率化します。
データに関する質問への回答
Geminiは自然言語での質問に基づいてデータモデルを分析し、ユーザーが必要な情報を素早く提供します。これにより、複雑なデータクエリを手動で構築する必要がなくなります。
Looker StudioレポートのGoogleスライドへのエクスポート
Looker StudioのビジュアライゼーションをGoogleスライドに直接エクスポート可能です。プレゼンテーション資料の作成を効率化し、分析結果の共有が迅速に行えます。
Looker Studioでの計算フィールドの作成
AIが複雑な計算式やフィールドを自動的に生成します。これにより、計算式の構築が簡略化され、迅速な分析が可能になります。
Copilot for Power BI
Copilot for Power BI は Microsoft が提供するAIアシスタントで、以下の5つの主要な機能を通じてデータ分析とレポート作成を効率化します。
レポートの作成支援
Copilotは、自然言語で指示を受けると、適切なデータモデルやビジュアルを基に、レポートページを自動生成します。「売上データを可視化して」といった指示に応じて、関連情報を効率的にまとめたページを作成し、レポート作成の初期プロセスを簡略化します。
レポートの要約や概要ビジュアルの作成
Copilotはレポートの内容を自動的に分析し、主要なトレンドやデータポイントを要約します。また、視覚的なサマリーを生成し、ビジネスユーザーがデータの全体像を迅速に把握できるようサポートします。
モデル内のデータに関するQ&A
ユーザーはCopilotに対してモデル内のデータに関する質問を行うことができ、「昨年の売上トップ5の商品は?」といった質問に即座に答えを得られます。また、シノニム(同義語)設定を活用して、質問の精度を向上させることが可能です。
セマンティックモデルの要約や説明追加
Copilotはセマンティックモデルを要約し、その構造や意味をわかりやすく解説します。さらに、指標やモデル内の項目に対して説明を追加することで、チーム全体でモデルを共有しやすくします。
DAXクエリの記述
高度なデータ分析を行うためのDAXクエリを自然言語から自動生成します。これにより、複雑な計算や指標作成が容易になり、非技術者でも高度な分析を行うことが可能です。
Copilot for Power BIは、非技術ユーザーから専門的なデータアナリストまで、幅広いユーザーに向いており、データ活用の効率を大幅に向上させるツールです。
Amazon Q in QuickSight
Amazon Q in QuickSightはジェネレーティブAIを活用し、以下の4つの主要な機能を提供しています。データ分析プロセスを効率化し、ビジネスユーザーが直感的にデータの価値を引き出せるよう支援します。AIが複雑な作業を代行するため、専門知識がなくても高度な分析を簡単に行うことが可能です。
インサイト生成
データセットから自動的にトレンド、異常値、重要なパターンを特定し、視覚的にわかりやすいインサイトを提供します。AIが大量のデータを迅速にスキャンし、ユーザーが見逃しがちなデータの重要なポイントを強調します。これにより、ユーザーは意思決定に必要な情報を簡単に得ることができます。
分析・計算フィールド生成
AIは自然言語入力を基に、計算フィールドやカスタム指標を自動的に作成します。たとえば、「今年の売上成長率」や「平均顧客購入金額」といったカスタムメトリクスを指定すれば、AIが複雑な数式やフィルタ設定を構築します。これにより、技術的スキルがなくても高度なデータ分析が可能です。
データストーリー生成
AIは、データからストーリー性のある説明を自動生成し、視覚化に加えて、その背景や意味を文章で提供します。たとえば、売上データに基づき「特定地域での売上増加が全体の成長を牽引している」などの具体的なストーリーを提示します。これにより、データの解釈が容易になり、レポート作成の時間を大幅に削減できます。
エグゼクティブサマリー生成
AIが分析結果を基に要点を抽出し、経営層向けの簡潔で理解しやすいサマリーを作成します。売上、利益、コストなどの重要指標を短い文章や箇条書き形式で提示し、迅速な意思決定をサポートします。これにより、詳細な分析結果を短時間で把握することが可能です。
ツール選定のポイントと未来展望
BIツールを選定する際には、企業の環境やニーズに応じた判断が重要です。TableauやLookerは大規模なデータ分析に適しており、Power BIはOffice環境での利用を前提とした企業に向いています。一方、QuickSightはAWS環境での運用に最適化されています。 今後、これらのツールはAI技術のさらなる進化により、より高度な予測や自動化機能を備えると予測されます。これにより、BIツールはデータ活用の枠を超え、企業全体の戦略的意思決定を支える中心的な存在となるでしょう。
まとめ
BIツールとAIの融合は、企業のデータ活用能力を飛躍的に向上させています。それぞれのツールは異なる強みを持ち、さまざまなユースケースに対応しています。これらを効果的に活用することで、データ分析のスピードと精度を向上させ、ビジネスの競争力を高めることが可能です。今後もAI技術の進化に伴い、BIツールが提供する価値はさらに広がることでしょう。
参考文献
- Salesforce Help | Get Predictions in Tableau
- Tableau from Salesforce | Tableau Agent
- Tableau from Salesforce | Tableau Pulse
- Gemini for Google Cloud ガイド | Gemini in Looker
- Microsoft Learn Challenge | Copilot for Power BI の概要
- Amazon AWS | Amazon Q in QuickSight