「情報が多すぎて何から手を付ければ良いのかわからない」と感じたことはありませんか?特に、システム開発やUI/UXデザインにおいて、情報を整理して効果的なナビゲーションを構築するのは重要な課題です。そんなときに役立つ手法が「カードソーティング」です。ユーザーの視点を取り入れた情報設計を実現するために、なぜこの手法が重要なのか、詳しく解説していきます。
カードソーティングとは?
カードソーティングとは、ユーザーが情報をどのように分類し、関連性を見出すのかを理解するためのリサーチ手法です。参加者に情報を示したカードを提供し、それをカテゴリーごとに整理してもらうことで、ユーザーの思考プロセスを可視化します。UXリサーチの分野では、ナビゲーション設計や情報アーキテクチャ(IA)の改善において重要な役割を果たします。
カードソーティングは、シンプルな手法でありながら、アプリケーションやウェブサイトの設計に大きなインパクトを与えます。特に、情報が複雑に入り組んだBtoBシステムの開発や、複数の業務を統合する業務アプリの設計においては、その有効性が一段と高まります。
カードソーティングが重要な理由
ユーザー視点の情報設計
システム開発では、プロダクトチームの内側の視点に偏りがちです。開発者やデザイナーは、自らが考えたカテゴリーが「ユーザーにとってもわかりやすいはずだ」と思い込むことがよくあります。この視点の偏りは、ユーザーが直感的に理解できない情報構造を生み出す原因になります。
カードソーティングを導入することで、実際のユーザーがどのように情報を整理しているのかを明らかにすることができます。具体的には、ユーザーがどのような基準で情報をグループ化するのか、どのような命名ルールを用いるのかといったユーザーの認知の仕組みを把握することが可能です。これにより、ユーザーが直感的に理解できる情報構造を実現でき、検索性やアクセス性の向上が期待されます。ユーザーの行動データやフィードバックを基に、情報の整理方法を改善することで、UI/UXの最適化を図ることが可能です。
ナビゲーション設計の最適化
Webサイトや業務システムでは、ナビゲーションがユーザー体験を大きく左右します。適切なナビゲーションがあれば、ユーザーは直感的に必要な情報を見つけることができますが、不適切なナビゲーションは離脱の原因となります。特に、複雑な業務システムや多機能なBtoBアプリケーションでは、ナビゲーションの設計が業務効率に直結するため、その重要性は高まります。
カードソーティングを活用することで、ユーザーがどのような経路で情報にたどり着くのかを理解できるため、情報の構造化がスムーズに行えます。たとえば、ユーザーが「請求書関連の情報は"会計"の下に置きたい」と考えている場合、開発チームの想定と異なるケースがあるかもしれません。このギャップを埋めるために、カードソーティングの結果をナビゲーション設計に反映させることで、ユーザーの期待に沿った操作性を実現できます。これにより、業務効率の向上や学習コストの削減が見込まれます。
情報アーキテクチャ(IA)の向上
情報アーキテクチャ(IA)は、システム開発においてユーザーがどのように情報を探索するかを決定するものです。具体的には、情報の配置、カテゴリーの設計、コンテンツの優先順位などが含まれます。適切なIAは、ユーザーの業務効率やUXの向上に直結しますが、誤ったIAは、情報を見つけるまでの時間を増加させ、ユーザーのフラストレーションを引き起こします。
カードソーティングの結果を元に、ユーザーにとって自然な情報の配置を行うことで、より直感的な情報設計を可能にします。例えば、ECサイトであれば、商品カテゴリーの分類方法やフィルターオプションの設計が該当します。ユーザーが「シャツはトップスに含まれる」と考える一方で、開発チームが「シャツはアパレルの下位カテゴリー」と考えるケースもあります。カードソーティングのデータを基に、ユーザーのメンタルモデルに沿った情報設計を行うことで、混乱を減らし、ユーザーの利便性を向上させることが可能です。
さらに、情報アーキテクチャの改善は、SEO(検索エンジン最適化)の観点からも有効です。論理的なカテゴリー設計は、クローラーが情報を理解しやすくなり、検索エンジンの評価が高まる可能性があります。カードソーティングの結果は、メニュー構造の設計やカテゴリーページの階層設計にも活かすことができ、アクセスの向上にもつながります。
カードソーティングの種類と手法
オープンカードソーティング
オープンカードソーティングは、参加者にカードの内容を見せ、カテゴリーの名称を自由に作成してもらう手法です。新しい概念や未分類の情報を整理する際に最適な方法であり、ユーザーの認知モデルや思考プロセスを把握するのに有効です。
オープンカードソーティングのメリットは、ユーザーが自分の言葉でカテゴリーを定義するため、ユーザー中心の情報設計が可能になる点です。例えば、新しい業務アプリケーションのメニューを設計する場合、開発チームが想定していなかった分類方法が明らかになることがあります。
一方、デメリットとしては、参加者ごとに異なるカテゴリー名がつけられる可能性があるため、後の集計や分析が複雑になることが挙げられます。これを解消するために、分類後のクラスター分析や共通パターンの抽出が必要になります。
クローズドカードソーティング
クローズドカードソーティングは、事前に用意したカテゴリーにカードを分類してもらう手法です。すでに情報構造がある程度決まっている場合や、特定の業務要件がある場合に有効です。業務システムの機能分類やWebサイトのナビゲーションメニューの検証に使用されることが多いです。
この手法のメリットは、結果の集計や分析が容易であることです。すでに用意されたカテゴリーにカードを当てはめるだけなので、参加者の解釈が異なっても、データの整理がしやすいのが特徴です。例えば、業務管理システムのメニューを再設計する際、開発チームが考案したカテゴリーがユーザーにとって理解しやすいかどうかを検証することができます。
デメリットは、事前に用意したカテゴリーが不適切な場合、ユーザーの意見を十分に引き出せない可能性があることです。たとえば、業務管理システムの「レポート」というカテゴリーが、ユーザーにとっては「分析」や「ダッシュボード」と異なる意味合いを持つ場合があります。このようなケースでは、あらかじめ用意したカテゴリーがユーザーの認知に合わない可能性があります。
ハイブリッドカードソーティング
ハイブリッドカードソーティングは、オープンカードソーティングとクローズドカードソーティングの要素を組み合わせた方法です。一部のカテゴリーは事前に決めつつも、必要に応じて新しいカテゴリーを追加するアプローチです。既存の情報アーキテクチャを改善しつつ、新しい要件にも対応できるのが特徴です。
この手法のメリットは、既存の情報構造を活用しつつ、ユーザーの自由なアイデアを取り入れられる点です。既存の構造を壊さずに改善を行いたい場合、ハイブリッドカードソーティングが適しています。特に、既存の業務システムのUI/UX改善や、新しい業務要件の追加においては、ユーザーの意見を取り入れながら情報構造をアップデートする方法として有効です。
また、ハイブリッドカードソーティングのもう一つの利点は、分析の柔軟性です。オープンカードソーティングでは、ユーザーが作成するカテゴリーの集計に手間がかかることがありますが、ハイブリッドアプローチでは、事前に決めたカテゴリーと新たに追加されたカテゴリーを組み合わせることができるため、分析作業が効率化されます。
一方で、ハイブリッドカードソーティングのデメリットは、参加者が新しいカテゴリーを追加する際に、過剰にカテゴリーを増やしてしまう可能性がある点です。これにより、情報構造がかえって複雑になることがあります。解決策としては、参加者が新しいカテゴリーを追加する際のルールを明確に定め、事後のクラスター分析を行うことが挙げられます。
これら3つの手法は、それぞれの目的や状況に応じて使い分ける必要があります。未知の情報体系を明らかにする場合はオープンカードソーティング、既存の情報構造を確認したい場合はクローズドカードソーティング、そして新しい要件を追加しつつも既存の構造を維持したい場合はハイブリッドカードソーティングが適しています。
カードソーティングの進め方
準備とツールの選定
カードソーティングを始める前に、ソーティングに使用する情報(コンテンツ)のリストを用意します。この情報リストは、ユーザーが理解しやすい言葉で表現されている必要があります。例えば、システムの機能名や製品の名称が専門的すぎる場合は、ユーザーがすぐに認識できる言葉に変換しておくと効果的です。
ツールの選定においては、オンラインでの実施が可能なツールが便利です。代表的なツールには、Miro、Optimal Workshop、Dovetail、Muralなどがあります。これらのツールは、参加者がリモートで作業できる環境を提供し、クラウド上でデータを可視化および共有する機能も備えています。ツールを選定する際は、参加者の技術的なリテラシーも考慮し、使いやすいツールを選ぶことが重要です。
参加者の選定
参加者は、システムの最終的なユーザーに近い人々が理想的です。例えば、業務システムの再設計であれば、実際に業務を行う現場スタッフが参加者の候補となります。また、ユーザーの多様な視点を取り入れるために、異なる職種や異なる業務フローに関与する人々を参加者に含めるのが望ましいです。
参加者の数については、5人から10人程度が適切とされています。これは、少人数だと意見が偏るリスクがある一方、大人数だと調整が難しくなるためです。多様な視点を反映させつつ、実施のコストも考慮した人数設定が求められます。参加者の募集方法としては、業務システムの場合は内部のユーザーグループから、一般ユーザー向けのアプリ開発の場合はリクルーティングサービスを活用する方法もあります。
実施手順
カードソーティングは、以下の手順で進めると効果的です。
- 目的の明確化: 何を明らかにしたいのかを定義します。例えば、ナビゲーションメニューを改善するのか、情報アーキテクチャ(IA)を見直すのか、具体的な目的を設定することが重要です。
- カードの作成: 事前に情報のリストを基にカードを作成します。オンラインツールを活用する場合は、カードの内容をデジタル上にアップロードします。カードの情報は、ユーザーが理解しやすいように簡潔なラベル名をつけておくと、分類がスムーズに進みます。
- 参加者の募集: ユーザー視点を取り入れるため、業務の現場スタッフや最終的な利用者を募集します。適切な人数を確保することで、統計的に信頼性の高いデータが得られます。
- 実施: オンラインツールを使い、カードの分類作業を行います。オープンカードソーティングでは、参加者がカテゴリー名を自由に作成するのに対し、クローズドカードソーティングでは、あらかじめ設定したカテゴリーに分類してもらいます。リモート環境では、ツールの操作方法を事前に説明し、参加者がスムーズに作業を進められるよう支援します。
- 分析: カテゴリーの傾向や共通パターンを見つけるため、ツールの分析機能を活用します。クラスターマップを作成し、どの情報がどのカテゴリーに分類されたかを確認します。オープンカードソーティングの場合は、参加者が作成したカテゴリー名に一貫性があるかどうかをチェックし、共通の命名パターンを抽出します。
- 情報構造の改善: 分析結果を元に、ナビゲーションや情報構造を最適化します。例えば、参加者が多くの情報を「サポート」カテゴリーに入れた場合は、サポートメニューをより明確に表示する必要があるかもしれません。さらに、改善点はプロトタイプに反映し、テストを繰り返すことで、ユーザーにとってわかりやすい情報アーキテクチャが構築されます。
まとめ
カードソーティングは、情報の分類と構造化を通じて、ユーザーの思考を可視化するための強力な手法です。UI/UXデザインだけでなく、業務システムの要件定義やナビゲーション設計においても効果を発揮します。ユーザーがどのように情報を認識しているかを理解することで、より直感的なインターフェースを提供できるでしょう。これからシステム開発を進める際は、カードソーティングを取り入れることで、よりユーザーフレンドリーなプロダクトを目指しましょう。